年末恒例の新語・流行語大賞のノミネート30語が4日、発表された。あまり聞きなれないものや「どうしてこれが?」と思うものもある中、残念だったのはスポーツ関連の言葉が少なかったこと。「大谷ルール」など野球はあるが、他のスポーツは「落選」だった。

サッカーはワールドカップ(W杯)が開幕前だからだろうが、今年2月の北京オリンピック(五輪)関連も0。昨年は東京五輪・パラリンピックで「ゴン攻め」「スギムライジング」など多くノミネートされたが、北京五輪からは候補も出なかった。

確かに印象は薄くなっているのは事実。ロシアのウクライナ侵攻、円安などでの物価高騰、新型コロナ禍も続く中、多くの不安要素が北京五輪の感動を忘れさせたのかもしれない。

日本勢が低調だったというわけではない、獲得メダル数は、金3を含む18個。前回平昌五輪の13個を抜いて、過去最多となった。数多くの感動的なシーン、印象的な言葉もあった。

フィギュアスケートの羽生結弦はショートプログラムで氷の穴に足を取られる不運を恨むことなく「氷に嫌われちゃったかな」と言った。そして、フリーの後に「やっぱり、この氷が好き」。順位を超越して心に突き刺さる言葉だった。

スノーボードの平野歩夢はジャッジの採点に疑問を呈し「選手は命をかけてやっている」。低い得点への不満以上に、あいまいな判定基準への怒り。競技の特性や五輪におけるスノボの立場など、背景にある事情が言葉の力になった。

スキージャンプ混合団体でスーツ規定違反をとられ「私の失格で、みんなの人生を変えてしまった」と高梨沙羅が号泣。慰めた小林陵侑は「たくさんハグしてあげました」と言った。他の競技でも「言葉」はあった。ただ、確かに多くの人が知り、繰り返し使うような言葉ではなかった。

90年に年間大賞が選定されて以来、96年マラソン有森裕子の「自分で自分をほめたい」04年競泳・北島康介の「チョー気持ちいい」06年フィギュアスケート荒川静香の「イナバウアー」18年カーリング女子ロコ・ソラーレの「そだねー」と五輪関連が大賞に輝いた。

ベスト10やノミネートまで見れば、五輪開催の年に関連する言葉が入るのは当たり前だった。五輪の記憶は、名言とともにある。だからこそ、今回は寂しい。「五輪好きおやじのたわ言」なのだが。

ノミネートの中の聞きなれない言葉が「若者たちの常識」であるのと同じように、もし五輪関連の言葉が入っても「知らない」と言われるのかもしれない。確かに世代的に若い層は五輪を見ないし、興味を示さない。「若者の五輪離れ」を感じることはある。

テレビや新聞から「いろいろな情報を受け取る」時代は終わり、有料放送やネットで「欲しい情報だけを得る」時代に変わった。多競技で選択肢も豊富な五輪は「お気に入り競技だけを見る」のが一般的。「全国民が見る」ことが減ったから「全国民が知る言葉」も少なくなったのだろう。

五輪から「名言」や「流行語」が生まれにくくなっているのは確かだが、感動を増幅させる「言葉」には出会いたい。24年パリ夏季大会、26年ミラノ・コルティナ冬季大会、28年ロサンゼルス夏季大会…、これからも五輪は続くのだから。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

トリノ五輪フィギュアスケート エキシビション イナバウアーを披露する荒川静香さん(2006年2月24日撮影)
トリノ五輪フィギュアスケート エキシビション イナバウアーを披露する荒川静香さん(2006年2月24日撮影)