取材に行くたびに聞く言葉がある。感謝-。バドミントンの桃田賢斗(23=NTT東日本)の無期限試合停止処分が明けてから4カ月が経過した。国内外で6大会に出場してきたが、コメントする機会があると「感謝」という言葉が必ず、複数回出てくる。

 最初は処分解除が決まった3月の会見だった。当初はあらかじめ準備した定型文の1つと思っていた。だが、以来、5月の国内復帰戦、7月の国際試合復帰戦でも複数回口にする。そして国際大会連勝となったベルギー国際から帰国した18日にも「感謝の気持ちを持ってプレーできた」「感謝の気持ちを忘れず、1試合ずつ、自分らしく戦う」と2回、感謝という言葉を使った。

 世界ランク2位まで上り詰め、リオデジャネイロ五輪金メダル候補になりながら、昨年4月、違法賭博行為で無期限の試合出場停止処分を受けた。羽根を打てない日々。会社の総務人事部で、保健担当として資料をつくるなど、社業に励んだ。今まではトップ選手として特別待遇されることが多かった。「社員の働く姿を見て、バドミントンができるありがたさ、感謝の気持ちが芽生えた」という。バドミントンができることが当たり前ではない。支える人たちがいたからこその当たり前だった。

 だからこそ、復帰後も常に感謝を忘れない。感謝の言葉は、謝罪会見の定型文ではなかった。その気持ちはプレーにも好影響を及ぼす。

 桃田 1点の執着心。負けたくないとの思いが前より強くなった。試合だけでなく、コート外でも、日常の過ごし方1つから取り組み方が変わってきた。バドミントンのことをずっと考えて、練習時間も増えた。海外遠征中もバドミントンのことしか考えていない。そこは(感謝の気持ちを持つ)いいところ。

 世間の目が冷たいときも、会社や周囲は見守り支えてくれた。そんな人々に、感謝し、恩返しするためにはプレーで頑張るしかない。謹慎中は真剣に自分と向き合い、苦手だったフィジカルトレに時間を費やす。技術に頼った以前のスタイルに、スピードと粘りも加わった。復帰後は国内外で6大会に出場。国際試合の決勝で1度負けた以外は全勝。「前の自分よりもっと強くなれる」というまで自信も回復した。

 感謝-。広辞苑で引くと「ありがたく感じて、謝意を表すこと」とある。バドミントンができる環境に対し、心から感謝できる桃田には真の強さが備わってきている。【田口潤】

 ◆田口潤 72年、東京都生まれ。94年に入社して取材記者一筋。五輪、相撲、サッカー、ボクシング、プロレス、ゴルフ担当を経て現在は五輪担当。