雄たけびが上がる度に、14歳のプレーにどんどん引き込まれた。卓球のワールドツアーのジャパン・オープン荻村杯男子シングルスで、張本智和(14=エリートアカデミー)が、準々決勝で16年リオ五輪金メダルの馬龍(中国)、決勝は12年ロンドン五輪金メダルの張継科(中国)と五輪王者2人を破って優勝した。相手が強ければ強いほど爆発し、今や大物食いが「代名詞」。ただ、若さに任せた勢いだけで戦っているわけではない。14歳とは思わせないクレバーな戦いを展開させるからこそ、ファンの視線をくぎ付けにさせる。

男子シングル決勝 張継科からポイント奪い声を張り上げる張本(撮影・栗木一考)(2018年6月10日)
男子シングル決勝 張継科からポイント奪い声を張り上げる張本(撮影・栗木一考)(2018年6月10日)

 準々決勝の馬龍戦がそれを物語っていた。絶対王者相手に秘策を練った。男子の倉嶋洋介監督は「最近の馬龍は最初はガツガツこない。バックハンドでチャンスを作りたい」。さらに、あえて自分の武器であるチキータを多用せず、ラリーに持ち込み相手のミスを誘発させる。もちろん、その作戦ができるのも日々の努力の積み重ねがあるからこそ。

 3月のカタール・オープンでブラジル選手に負けた後は、その選手が使っていた投げ上げサーブを習得するなど、サーブの種類を増やすことで、戦術の幅を広げた。5月の世界選手権団体戦で5位に敗れた後は、ラケットのラバーを硬いものに替え、球により力を宿した。「日本開催で優勝したい」。打倒、中国を掲げ、戦う態勢を作り上げて挑んだ大会。王者と初対戦した小6だった15年は、0-4と完膚無きまでにたたきのめされたが、あれから約3年。別人になって「憧れの人」と対峙(たいじ)した。

男子シングルで優勝した張本(撮影・栗木一考)(2018年6月10日)
男子シングルで優勝した張本(撮影・栗木一考)(2018年6月10日)

 予想通り、馬龍は攻めてこない。得意のバックハンドでラリーに持ち込み優位に試合を進めた。多彩なサーブで相手のレシーブを乱し、強打を打ち込む。流れをつかむと2ゲームを先取した。その後、2ゲームを奪われたが、ここからまたギアを上げて結局4-2で勝利を手にした。1ポイント取る度に、自分を鼓舞し、背中を反るようにして声を張り上げる。観客もそれに呼応し、ボルテージが上がり大歓声。劣勢でも、何かやってくれそうと思わせる。みな「張本劇場」に引き込まれていった。

男子シングルで優勝した張本はカメラに向かって手を振る(撮影・栗木一考)(2018年6月10日)
男子シングルで優勝した張本はカメラに向かって手を振る(撮影・栗木一考)(2018年6月10日)

 雄たけびが注目されているが、取材エリアでの対応は試合中とはまったく違う。コメントこそ強気なものが多いが、質問する記者が変わる度に向きを変え、真っすぐ目を見て答える。5月から卓球担当になったが、約2週間前の中国オープン出発前に名刺を渡した時もグッと目をみて「よろしくお願いします」と深々とあいさつをしてくれた。静と動が同居する魅力的なタイプだ。

 次戦は7月中旬の韓国オープンになる予定。約1カ月、練習漬けの毎日になるが、今度はどんな進化を見せてくれるのか? 今から期待せずにはいられない。【松末守司】


 ◆松末守司(まつすえ・しゅうじ)1973年(昭48)7月31日、東京生まれ。06年10月に北海道本社に入社後、夏は競馬、冬はスポーツ全般を担当。冬季五輪は、10年バンクーバー大会、14年ソチ大会、今年3月の平昌大会と3度取材。5月から五輪担当になり、主に卓球、レスリングを担当。