ジャパンパラ陸上 男子1500メートル(車いすT52)で優勝した佐藤友祈はインタビューに応じる(2018年7月7日撮影)
ジャパンパラ陸上 男子1500メートル(車いすT52)で優勝した佐藤友祈はインタビューに応じる(2018年7月7日撮影)

 彼は悔しさを包み隠すように、淡々と言葉を並べた。「世界記録を出しても、そんなに大きなニュースにはならなかったですね。この競技を、もっと多くの人たちに知ってもらう必要があるんだと思います」。7月7日、正田醤油スタジアム群馬。ジャパンパラ陸上競技大会第1日に、400、1500メートルの2本のレースを走り終えた直後だった。

 その6日前だった。1日、東京・町田市立陸上競技場。関東パラ陸上選手権最終日に、彼は400メートルで55秒13、1500メートルで3分25秒08の世界新記録をマークした。タイムを示すトラック横の電光掲示板を指さし、丸っこい、優しそうな顔をクシャクシャに崩していた。それまでの世界記録は世界を舞台に競い合ってきたライバル、レイモンド・マーチン(米国)の55秒19、3分29秒79だった。

佐藤友祈は1500メートルに続いて400メートルでも世界新をマークし、タイム表示を指差してまた笑顔(2018年7月1日撮影)
佐藤友祈は1500メートルに続いて400メートルでも世界新をマークし、タイム表示を指差してまた笑顔(2018年7月1日撮影)

 この2種目で、16年リオデジャネイロ・パラリンピックではマーチンに敗れて銀メダル。昨年のロンドン世界選手権では雪辱して2冠を達成した。そして今年、彼が設定した目標が「世界新」。彼の考えはこうだったはずだ。

 -20年東京の2年前に記録を出すことで、自分のタイムがマーチンら世界の強豪選手の目標になる。追われる立場に身を置くことで、自らにこれまで以上のプレッシャーをかけ、厳しいトレーニングに耐え得るモチベーションを維持する。あえて標的になることで自分はもっと強くなれる。何より自分が世界記録保持者になることで、日本でもパラ陸上の認知度がもっと上がるに違いない-

 リオ当時から体重を8キロ落とした。苦手のスタートにも工夫を凝らした。昨年の世界選手権以降も決して満足することなく、自らと向き合ってきた。狙っていた5~6月のスイス遠征での記録更新はならなかったが、相性のいい町田のトラックで狙い通りのタイムを刻んだ。

 日本のパラ陸上界で最も東京の金メダルに近いとされるが、より厳しい状況に自分自身を放り込んだ。10月にはジャカルタ・アジアパラ、来年にはUAEドバイで世界選手権が行われる。名実ともに世界一として東京への2年を戦っていく。ただ、彼はこう言う。「ボクが名実ともに世界一になるのは、東京で世界新で金メダルを取ったときでしょう。まだ、パラリンピックの金メダルがありませんから」。

 男子車いすT52クラス、佐藤友祈(ともき、28=WORLD-AC)。彼の名をぜひ覚えていてほしい。機会があればぜひ、彼の走りをスタジアムで見てほしい。【小堀泰男】