お笑いコンビ「南海キャンディーズ」しずちゃんの驚異の社交性を目撃した身として、相方・山里亮太と蒼井優のキューピッドとなったことに1人納得した次第です。

15年10月の中国・北京。秋の大都会で2人で飲食店をはしごした時に目撃した「巻き込む力」は本当に鮮烈だった。なぜ一介のスポーツ紙の記者が売れっ子芸人とマンツーマンで食事することになったのかの始まりは、12年ロンドン五輪前にさかのぼる。

北京から車で東へ約4時間の秦皇島。アマチュアボクシングの五輪予選だった世界選手権は同年5月、北朝鮮まであと少しの万里の長城の東の終点で開催されていた。しずちゃんこと山崎静代は内気な自分を変えたいと始めたボクシングで、いつのまにか女子ミドル級の国内の先頭ランナーとなり、日本代表として五輪を目指すリングに上がっていた。

芸能人の五輪挑戦。笑いを封印とまではいかないが、ある時は過呼吸寸前まで自分を追い込んで勝利を求める姿に、純粋にアスリートとして感嘆し、紙面で記事を書いた。

結果は3回戦敗退で五輪には届かなかったが、彼女が内気の殻を破るようにリング上で「どつき合い」をする様は見事の一言だった。書き手としても「しずちゃん」というキャラクターは置き去りにして、文字を連ねた。

それから3年後、偶然の再会の場は羽田空港、互いに別の目的で再び中国に向かう直前だった。こちらはフィギュアスケートの中国杯、1年間の休養から復帰した浅田真央を追って。しずちゃんはプライベートの旅行で北京に向かうところ。空港のチェックインを終えてぶらぶらしていると、互いに気付いて「あっ!」となった。

「真央ちゃんの試合があるんですか? 見たいなあ」と高まる様子に、チケット情報を調べますと約束。「連絡先を教えてもらえますか?」としずちゃんから気さくに言われて、互いに違う飛行機で現地へ向かった。

無事にチケットをゲットして観戦したしずちゃんからお誘いを受けたのは、その夜。「ご飯にいきませんか」と連絡を頂き、こちらは芸能人という勝手な「テレビの中の人」感とその誘いの気軽さとのギャップに戸惑いながら、「この前いった良いお店知ってます。大衆料理店の雰囲気ですがいいですか」と切り返すと「はい!」。

2人で北京で中華料理を食す運びとなった。料理店での会話の一端は…。

「よくいきなりこんな記者みたいな職業の者とご飯に行きますね、しかも中国で」「昨日も北京の日本人のやられている旅行会社にいってみて、そこにいた人と夜ご飯食べたんですよ」「飛び込みですか?」「そういうの楽しいじゃないですか」

はい、その後の中華食べながら、すごく楽しかったです。

「ビールを作っている良い店を知ってますが、2軒目に行きますか?」と切り出すと、再びの快諾で2人で地下鉄で移動。自家製ビールを出すお店に到着したのは午後11時過ぎだったか。ここから、さらにしずちゃんのすばらしさを目の当たりにした。

互いにそこそこ酔っていたと思うが、気付くとしずちゃんはカウンターの隣に座った中国人と思われる男性に「ナンパ」されていた。それも1人ではない。カウンターの背後にあったテーブル席の男性まで巻き込み、モテモテ状態。

中国語は話せないから、どんなコミュニケーションをしているかは深酔いも重なり判然としなかったが、とにかくニコニコ、会話は盛り上がりに盛り上がり、そのビアバーはしずちゃんが主役となって明るい雰囲気が充満していた。その時に刻まれたとんでもない社交性と、吸引力はずっと記憶に残っていた。

その上で、6月5日に開かれた結婚会見。冒頭からボクシンググローブをつけて相方・山里亮太を打ち抜く姿に中国での奮闘を思い返しながら、その交友関係の広さにうなずき、毒づきながらの相方への愛をひしひしと感じ、この人のキューピッドぶりに納得させられたのだった。

結婚に至った2人とも、その巻き込む力に引き寄せられて、道がいつしか決まっていったように感じた。2人が会見する壇上の右端で、これ以上ないくらい絶妙の間合いで突っ込みを入れながらニタニタする姿。それを見て“アスリート山崎静代”の取材を出来た幸運を感じながら、こちらも幸せな気持ちにさせてもらった。【阿部健吾】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)