「双葉町の星」がロンドンで輝く。日本自転車競技連盟は1日、ロンドン五輪の代表選手発表会見を都内で行った。トラック男子で2大会連続出場の渡辺一成(28=日本競輪選手会)は、福島第1原発の影響で警戒区域に指定されている福島県双葉町出身。全国各地で避難生活を強いられている町民の期待を胸に、ロンドンでの金メダルを誓った。他に同じ福島県出身の新田祐大(26)中川誠一郎(32)、トラック女子は前田佳代乃(21)、ロード男子は別府史之(29)新城幸也(27)が選ばれた。

 郷里にはもう1年以上も帰っていない。そして、これからも帰れるか分からない。渡辺の生家は原発から約3キロ。壇上では「家は一部が全損。自転車も5、6台そのままです。福島への思いを込めてメダルを目指したい」と話した。

 町は警戒区域に置かれ、役所などの行政機能は埼玉県加須市に移転。町民約7000人は各地で避難生活を送る。

 渡辺の家族も同じだ。震災発生時、実家には両親と姉と祖母がいた。避難所暮らしを経て、今は神奈川、埼玉で暮らす。自身は競輪学校がある静岡県内に移住していたため、被害は少なかったが、突然故郷を奪われた。実家の様子は、一時帰宅した父善行さんが撮った写真で知った。

 「皆さんに寄せ書きしてもらった日の丸の旗を持っていきます」。加須市で暮らす町民を中心に、激励のメッセージが埋まった横断幕が力の源だ。友達からも「お前の走りがオレらの元気になる」と背中を押され、気持ちはたぎる。

 先月には200メートルフライングタイムトライアルで9秒979の日本新記録。日本人初の10秒台を突破するなど、調子は上向く。「自分はやらなきゃいけない。金を目指す」。故郷の今後を少しでも明るくする、一番輝くメダル。それを求めてペダルを踏む。【阿部健吾】