母の挑戦が最終章を迎える。ソチ五輪最終選考会を兼ねるフィギュアスケートの全日本選手権は、今日21日にさいたまスーパーアリーナで開幕する。今季限りで現役を引退する安藤美姫(26=新横浜プリンスク)は20日、3枚の五輪切符を争う浅田真央(23)らと会場で練習。4月に女児を出産しての挑戦を「優勝しか道はないから厳しい」と覚悟して、22日のショートプログラム(SP)に臨む。

 安藤はスケートそのものを楽しんでいた。30分の練習の終盤、3回転サルコー-3回転ループの超高難度連続ジャンプを2度降りた。「(試合では)やらないです」と言いながら挑戦する真意は…。「滑っていることが楽しい。素直に出来るのがうれしくて、やれるならやろうかなと」。3年ぶりの日本一決定戦。思えば、中2で初出場した01年にいきなり3位。4回転ジャンプを決めた03年の初優勝。同じように、跳べることが楽しかった昔と同じ心境の安藤がそこにいた。

 大きく違うのは母になったこと。4月に第1子となる女児を出産し、3季ぶりに復帰を決意した。この大会に出るために予選のブロック大会2つ(関東選手権、東日本選手権)を勝ち抜いてきた。「この会場では母でなく選手なので、コメントはちょっとなと思います」。娘のことを聞かれると、そう答えた。「この場にいられることが光栄。(浅田らトップ選手と)同じリンクで滑れることに感謝してます」。競技者として、そう話した。

 厳しい現実は分かっている。最終選考会前に、選考基準の対象になる成績は残せなかった。さらに直前に背筋を痛めて、満足な練習は積めていない。「まだまだ(五輪は)遠い」「優勝しか道はないと言われているので厳しいかな」と話す。ただ、勝負はあきらめていない。SPではトーループの連続3回転を入れる。「回避したほうが安全ですが、トップの選手がいるので」と攻める。

 3度目の五輪出場へ、いよいよ時は迫る。18日に26歳の誕生日を迎えた母は、1人のスケーターとして心に誓う。「自分のベストを尽くすだけ。全日本の雰囲気を感じ、味わいながら滑られたら、自分も良い演技ができる。スケートをしている楽しさ、それを表現したい」。【阿部健吾】