<フィギュアスケート:世界選手権>◇29日◇さいたまスーパーアリーナ

 ソチ五輪6位の浅田真央(23=中京大)が4年ぶり3度目の優勝を飾った。世界歴代最高点を更新して首位発進したショートプログラム(SP)から、フリーは138・03点で自己ベストの合計216・69点。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は回転不足となったが納得の演技で、欧米人以外では最多の通算3勝目を挙げた。集大成として臨んだシーズンの最終戦を最高の形で締めくくった。今後は国内でのアイスショーに出演する。

 浅田の耳にははっきりと、しっかりとその声が届いた。「いけーーっ!」。演技の最終盤、力強いステップがフィニッシュに向かう。フェンスに近づいたとき、佐藤信夫コーチのその叫びが聞こえた。ぐんぐん加速して、勢いよくポーズを取る。集大成と位置付けたシーズンの最終幕-。

 浅田

 五輪ほどの「やりきった」「最高」というのとは一段下がるかも知れないですけど、日本の会場で良い演技を見せることができて、自分は幸せだな。

 投げ入れられる大量の花束に囲まれながら5、6回とうなずく。この瞬間を目に心に刻むように、会場を遠くまで見渡した。

 ソチ五輪のフリーを終えた直後、日本にいた久美子コーチに1通のメールを送った。「信夫先生にメダルをかけてあげられなかったのが心残りです」。

 バンクーバー五輪後から佐藤夫妻と師弟関係を結んだ。すでに世界を2度制していた浅田に対し、信夫コーチは指導法を押しつけず、意見を尊重してくれた。2人で練習場近くの食堂に昼ご飯を食べに行くなど、リンクを離れても一緒が多かった。23歳と72歳、孫と祖父ほどの年齢差ながら、意思疎通を続けてきた。この日の滑る直前には「何も話さなかった。お互いにうなずいて」。指導初期には「先生の言いたいことが分からない」時もあった関係。互いの考えが分かるほど、結びつきは強くなった。

 演技中も恩師のことが頭にあった。冒頭の3回転半は惜しくも回転不足となったが、感触は良い。続くのは連続3回転。「『2段モーションにならないように』と言う信夫先生のことを考えてました」。そして終盤の「いけ!」の声まで-。ソチでかけられなかったメダル。舞台は違うが、最も輝くメダルを表彰式直後のリンク脇で、自分の手でかけることができた。2人で歩んだ4年間の立派な恩返しができた。

 今後については「終わったばかりで、まだハーフハーフ(半々)。体はまだまだいけるので、自分の気持ちだと思う」と明言しなかった。そして、はにかんで口にしたのは「いまは部屋に帰って横になりたい」。いまは4年間の成果を出せたことに浸りたい。苦しく長かったシーズン。終えてみて、あらためて感じたことがある。「フィギュアっていいな」。【阿部健吾】