私は18歳からゴルフを始めた。プロを目指すには遅い年齢だ。その分、ただ球を打って学ぶだけではなく、体系立ててスイングを知るという考え方に至った。そしてスイングへの探求心は、私をアメリカへと向かわせた。

 それは、アメリカのPGAツアーで生まれるものが最先端であり、最高の技術理論だからだ。世界最高峰のツアーが開催されるアメリカでは、日々新しいクラブやボールが、最新のテクノロジーによって生み出されている。そして僕が興味を持った最新のスイング理論や指導方法も、PGAツアーを舞台に次々に新しいものが生まれている。

 新しモノ好きの私は、定期的にアメリカを訪れ、最新のスイングやティーチング理論の情報をせっせと集めては日本に持ち帰り、アマチュアの指導などに役立てている。自分の好奇心を満たすためにやっていたことが、いつしかライフワークとなったのだ。

 この連載では、私が集めてきたアメリカ発の最先端のスイングや、ティーチング理論、PGAツアーのHOTな話題を紹介していきたいと思っている。

 第1回で紹介したいのは、今では当たり前となった「ティーチングプロ」という地位を確立した男だ。

レッドベター氏(左)と筆者
レッドベター氏(左)と筆者

●選手でもないのに誰もが知っている、麦わら帽子の男

 「もっとも有名なゴルフティーチングプロと言えば?」

 そう聞かれたときに、おそらく最も多く名前の挙がる人物。

 それが、デビッド・レッドベター(63)だ。

 「アスレチックスイングの生みの親」とも、「ティーチング界のパイオニア」とも呼ばれる。近年では女子世界ランキング1位のリディア・コ、往年の名選手ではニック・ファルド、ニック・プライス、アーニー・エルスなどを指導し、メジャー通算21勝を実現してきた。

 アメリカでは“元祖ティーチングプロ”という存在で、プロ、アマチュア問わず多くのゴルファーからリスペクトされている。

 私は幸運にも互いの国で何度も直接会って話を聞く機会に恵まれ、さまざまなことを彼から学んできた。今でも時々このゴルフ界の伝説の人物と話をしていることが不思議に感じるときがある。

 私が独立して活動を始めて間もない2011年の秋、ある人物にレッドベターに会ってくるべきだと言われた。「会えるわけがない。いい加減なことを言うな・・・。」当時の私はその人物の発言に怒りさえ覚えた。

 しかし、私はその言葉が気になり、何のアポイントもなかったが周囲にレッドベターと会ってくると宣言し、2013年1月に渡米した。無謀な旅ではすべての物事が奇跡的に好転し、フロリダ州オーランドのレッドベターアカデミーの本拠地チャンピオンズゲートで会うことができた。日本から来たと告げた後にレッドベターが「コンニチハ」と片言の日本語で挨拶してくれたことを今でも鮮明に覚えている。

 そんな彼は、一言で言い表すなら“厳しさの権化”のような存在だ。人間的には非常に紳士的だし、ユーモアもあり感じの良い人物だが、ティーチングの現場ではその表情が一変する。自分の理論が確立されているため、レッドベターの理想型へとスイングを完成に導いていくという指導法を取っている。型にはまらない動きは容赦なく修正をさせ、その姿勢に一切の妥協は無い。アメリカのスポーツは全てにおいて「長所を伸ばす」という指導法を取られていると思われがちだが、少なくとも彼は違う。

 レッドベターが当時世界ランクで上位に入るほどの実力者を教えていた時のことだ。ある時その指導をめぐって、レッドベターとその選手の間で口論になった。聞けば、彼の求めているものに対して、その選手が相応の努力を怠ったというのだ。数分の言い争いののち、レッドベターはその選手に対して、「You are fired!(おまえはクビだ!)」と言い放ってその場を去ってしまった。選手がコーチに言ったのではない。その逆だ。レッドベターとその選手の関係はそれきりである。

求めるものに対して一切の妥協を許さない。彼はそんな男である。

レッドベター氏(右)とともに行った日本でのイベント
レッドベター氏(右)とともに行った日本でのイベント

●“厳しさの権化”がもっとも大切にしていること

 私がレッドベターに日本でアマチュア向けのレッスンイベントを開催してもらった時のことだ。

 あるレッスンイベントで1人のシングルを目指すアマチュアが質問をした。

 「上達するために僕らが唯一、大事にするとしたらそれは何か?」

 彼は間髪を置かずに、だがしっかりとした口調で答えた。

 「Be patient.(忍耐強く我慢することだよ)」


 私はかなり遅くからゴルフを始めたが、幸運にもゴルフを職業とする事ができた。

 しかし忍耐強く何かに取り組めるという性格ではない。私が教えるアマチュアの人たちの大半もそうだ。毎日、筋トレやパッティング練習が必要だとわかっていても続けられない。

 そこで、私から我慢強く続けられるコツを1つ。それは、誰かにその続けることを“宣言する”ことだ。

 ゴルファーはプライドが高い生き物だ。言ったからには後には引けなくなる。そしてあなたが宣言をすることで、言われた人は何らかのサポートをあなたにしてくれるはずだ。

 私が無謀な宣言をして雲の上の存在のデビッド・レッドベターと出会えたように、あなたも何か周りに宣言をしてみると、今年中にはベストスコアを出すことができるかもしれない。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)