全英オープンのヘンリク・ステンソンとミケルソンの歴史に残る名勝負の裏で、多くの選手がロイヤルトルーンGCに苦しめられた。特に日本人選手は残念な結果に終わった。日本ゴルフ界の悲願である日本人選手がメジャーで勝つためには何が必要なのか。スコットランドの地でそのヒントを得たいと思った。

●聖地の引力

 メジャーが開催されるコースを実際に体験しなければ、本当の難しさはわからない。そんな考えが頭をよぎり、昨年全英オープンが開催されたゴルフ生誕の地、セントアンドリュース・オールドコースをラウンドすることにした。

 事前の予約が取れなかったため、午前3時半に順番待ちの場所に行くと暗闇の中、すでに9人の列ができていた。

 最前列の人に何時に来たのかたずねたところ、

「オレは午前1時だ。でももっと早いやつがいたよ」

 そう言って指さした曲がり角の先には5つの寝袋らしきものが転がっている。

「たぶんこいつらは前日の午後10時くらいには来ていたはずだぜ」

 午前1時に順番待ちする彼が、信じられないというジェスチャーをしながらあきれ顔で教えてくれた。400年前からある海と強風によって「神が作りあげたコース」はゴルファーをここまで引きつける魅力を持っている。

●リンクスのわな

 15番目の順番待ちは絶望的かと思われたが、旅ではいつも運よく道が開ける。キャンセルが続々と出てラウンドできることになった。

 フロントナインはショットが好調で順調にラウンドし、11番まで3アンダー。リンクスは風がなくショットが思ったところに打てれば難しくはない。

 しかし、12番から気温が13度から一気に3度くらいまで下がる。風が強まり横殴りの雨が降ってきた。まるで初冬の北海道に台風が上陸した様相だ。スコットランドの雨混じりの風は重い。球が風の影響で曲がりはじめ、長いフェスキューやブッシュにつかまり始める。入れてはいけないバンカーに入る。あっという間に3ホールで7オーバーをたたいてしまった。

 ここまで急に天候と気温が変わるというのはなかなか日本では経験できない。

 天候・気温によってどれくらいスイングが影響を受けるのか、風によるボールへの影響がどの程度なのかは経験してみないとわからない。そして小さくて壁が高いバンカーや、出すだけでも困難な細くて長いフェスキュー芝からの脱出もコツが必要になる。コースに対する経験値を増やすことは絶対的に必要だ。

 そして、リンクスはミスショットを許容しない。1つのミスショットがそのラウンドを台無しにする致命傷となるのだ。自然が猛威を振るう時には耐え、優しくほほ笑みかける時には果敢に攻めるショットを打つことが求められる。自然と戦うためには風雨や気温差に負けない揺るぎないスイングという武器を持っていることが必須条件だと改めて感じた。

●海外コーチから見た日本選手のスイング

 今年の全英オープンの会場、ロイヤルトルーンGCではワールドランクトップ5に入っている選手のティーチング関係者と一緒に観戦した。

 コースを一緒に歩きながらそのティーチング関係者は唐突に切り出した。

「ヒロ、日本人選手のスイングは見劣りするな」

 確かに、ドライビングレンジの電光掲示板に毎回350ヤードと表示されるジェイソン・デイの迫力あるドライバーショットや、ローリー・マキロイの力強さと美しさを兼ね備えたスイングと比べてしまうと、差があることは否定できない。

「この舞台に出てくる選手は全て才能があるし、努力をしていると思う。しかし、日本人選手と世界のトップ10に大きな実力差があるのは事実だ」

 もちろん多くの原因や要素があると前置きしたうえでこう語った。

「とてもシンプルだが大事なことだ。選手は優秀なコーチに指導を受ければ良い選手になる。優秀ではないコーチに指導を受ければ良い選手でも良くない選手になる」

 ダイヤモンドをどのように磨き、加工するのか。その技術の良しあしが長い目でみると大きな差になると力説した。

全英オープンでティーショットを打つジェイソン・デイ
全英オープンでティーショットを打つジェイソン・デイ

●良いコーチを見つけるための質問

 アマチュアはどのように良いコーチを見つければいいのだろうか。そのヒントは海外に行くとティーチング関係者からよく聞かれるこの質問だ。

「あなたのティーチングのバックグラウンドは何ですか?」

 今までどのような学びを得てティーチング活動をしているのかということを問われる。特にアメリカのティーチング界ではバイオメカニクスなど学術的な知識を基にしたティーチングが主流だ。科学的に証明された根拠に基づいて「なぜ」ということを説明できれば、スイングの問題が正しく解決される可能性は高い。

 あなたがもし気になるコーチがいれば同じ質問をしてみるといい。あなた自身がその答えに納得できれば、一度教えを受けてみると良いだろう。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)