大会前から何かと話題を集めた五輪が終わった。メジャーと比較するとやはり物足りなさはあるものの、普段はなかなか見ることができない国々のプレーヤーを見ることができるという点では、よい大会だったと思う。ゴルフに触れる機会が少ない国の人々が、これを機に初めてゴルフを見たり、興味を持ったりすればそれは素晴らしいことだ。

 日本は世界で3番目にゴルフ場の数が多く、良質なギアを作るゴルフメーカーも多い。世界の中で日本がゴルフ先進国だと思う日本人も多いのではないだろうか。確かに米LPGAで賞金女王になった岡本綾子や、全米プロシニア選手権で優勝した井戸木鴻樹など世界にその実力を示す選手もいるが、PGAツアーの賞金王と男子メジャーの優勝者をいまだ輩出できずにいるのもまた実情だ。

 そこに感じるのはプロの技術レベルの差だ。本当にごくわずかな差ではあるのだが、世界のトップレベルのツアーでは、そのわずかな差が優勝やシード権の獲得を左右する。

 そして私はそのわずかな差は、指導者のレベルの違いだと思っている。


●東南アジアはゴルフ後進国か


 五輪を見ていてゴルフ後進国として認識されている国でも、レベルが高いとあらためて感じた。今シーズン3連勝を達成し、全英女子オープンを制したタイのアリヤ・ジュタヌガーンなど、力をつけている東南アジアの国々の選手がそうだ。


 以前タイのゴルフ場を訪れたことがあるが、コースメンテナンスがよくされていた。旅行者や富裕層向けに造られていて客単価が高いため、メンテナンスにコストをかけられるという理由があるようだ。

 そしてコースレイアウトも戦略的だ。距離もたっぷりあり、ハザードの難易度も高い。また、芝から打てる練習場や広々としたアプローチエリアを備えたゴルフ場も多くあり、シーズンオフには日本ツアーのプロが優れた練習環境と気候を目当てに合宿をするという話をよく聞く。

 まだ東南アジアではアマチュアに広く開かれているスポーツではないが、世界で戦うゴルファーを生む土壌を垣間見た。


●東南アジアのコーチ事情


 東南アジアには日本のような国内だけで完結するプロゴルフツアーはない。プロの試合は、アジアンツアーやヨーロピアンツアーの自国開催が年に数回ある程度だ。そのため最先端のティーチング理論などを、海外に学びに行こうという意識がとても高い。恵まれていない環境が、逆に彼らのハングリーさとフットワークの軽さを生んでいるのだ。

 例えば日本のようにアマチュアに広くゴルフが根付いていないので、母国語で書かれたゴルフ雑誌が少なく、国内で得られる情報には限りがある。そこで彼らは最先端の情報があるアメリカから情報を得るため英語を学び、インターネットを使い貪欲に情報を吸収して自分のティーチングに取り入れている。


●目標を持ったマレーシアの若きコーチ


 稀にではあるが、東南アジアでも欧米の著名なコーチがセミナーや講演会などを開催することがある。

 ジョーダン・スピースのコーチ、キャメロン・マコーミックがメインスピーカーのタイでの講演会で、20代のマレーシア人のプロコーチと話す機会を持った。

 彼はまだキャリアも浅く実績もほとんどなかったが、アジアンツアーを転戦するプロに売り込みをかけ、ゴルフコーチとしてアジア、そして世界で活躍することを目標としていた。

「本当なら契約プロに帯同してツアーを転戦できればいいんだけど、そんな事をしたら赤字になってしまうからね」

 移動距離が少ない日本ツアーと違い、国をまたいでの転戦ともなると、コストや時間の問題は大きな壁だそうだ。

「だから僕は契約のプロたちにスイングの動画を送ってもらい、それを使ってコミュニケーションを取っているよ。もちろん対面できないデメリットはあるけれど、デジタル技術も進化しているし、選手も僕も今のやり方に満足しているよ」

 マレーシアやインドネシアにはこういったコーチは多いそうだ。

 制約の多い状況でも環境のせいにせずに、最善の方法を自分たちで切り開いて行く。

 日本でもツアーコーチとしての土壌を作った先駆者たちは、同じだった。こういった動きができる若い世代のコーチが増えれば、ツアー、ひいては日本のゴルフ全体のレベルアップにつながるはずだ。決して安くはない講演会代を回収しようと食らいつくように必死で話を聞き、積極的に質問をする参加者たちの姿勢に東南アジアのゴルフ界のさらなる躍進の可能性を感じた。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)