2016年は、まさにこのプロの年だった! という選手がいないのが今シーズンの印象だ。

 PGAツアーでは年間を通して順位がつけられる指標が2つある。獲得賞金の累計を順位づける賞金ランクと、各大会の順位によってポイントが加算されるFedExCupポイントランキングだ。さらにはPGAツアー以外の大会での結果も加味される世界ランクがある。

 この3つの指標の1位はすべて違う選手だった。


<賞金ランク>

1位)ダスティン・ジョンソン

2位)ジェイソン・デイ

3位)アダム・スコット

9位)松山英樹


<FedExCup>

1位)ローリー・マキロイ

2位)ダスティン・ジョンソン

3位)パトリック・リード

13位)松山英樹


<世界ランク>

1位)ジェイソン・デイ

2位)ローリー・マキロイ

3位)ダスティン・ジョンソン

6位)松山英樹


 ダスティン・ジョンソン、ローリー・マキロイ、ジェイソン・デイの3選手が頭一つ抜け出している印象だが、どの選手も以前のタイガー・ウッズのように圧倒的な強さを誇るという印象はない。


今年の全英オープンを制したステンソン
今年の全英オープンを制したステンソン

●いずれも初制覇だったメジャー優勝者


 PGAツアー全体で振り返ってみよう。2015-16年シーズンでの最多勝は3勝で、デイとジョンソンの2人。2勝を挙げたのはラッセル・ノックス、ババ・ワトソン、ジョーダン・スピース、アダム・スコット、ローリー・マキロイの5人だ。

 その他の31試合は全て違う選手が優勝しており、ツアー優勝者は38人にものぼった。

 さらにメジャーの4試合でも4人の優勝者がおり、いずれもメジャー初優勝の選手だった。


マスターズ =ダニー・ウィレット

全米オープン=ダスティン・ジョンソン

全英オープン=ヘンリク・ステンソン

全米プロ  =ジミー・ウォーカー


●メジャーは1日にして成らず


 マスターズで優勝したウィレットはまだ20代だが、そのほかの選手はキャリアを重ねた中堅選手だ。そして彼らにはある共通点がある。4人ともが特定のコーチと長くタッグを組んでいるという点だ。

 ウィレットとステンソンはピート・コーウェンに、ジョンソンとウォーカーはブッチ・ハーモンはそれぞれ師事しているが、4人ともにプロになってからのキャリアの半分以上をコーチと共に過ごしている。

 ウォーカーはプロ入り後、全く結果が伴わなかった時期からハーモンとともにスイングを作りなおし、10年間かけてメジャー優勝をつかみ取った。

 ステンソンとコーウェンに至ってはそれよりも長く、15年ものあいだ離れることなく二人三脚でメジャーを目指していた。

 優勝した全英オープンの前週、ステンソンはスコットランドオープンに出場していた。全英オープンの会場であるロイヤルトルーンと同じリンクスで、さらに翌週の会場への移動も容易なため、全英オープン出場者の多くが出場する前哨戦となっている。

 ステンソンはその大会で3日目に66を出し、優勝の可能性もあったが、最終日70とスコアを崩してホールアウトした。

 メジャー前週に思い通りのプレーができず、ナーバスになっていたのだろう。全英オープンの月曜日の練習日にドライビングレンジでコーウェンと強い口調で言葉を交わす姿が見られた。それは翌日火曜日にも見られ、スイングの状態が良くないのかと思われたが、見事に調子を上げ最終日63で回り、メジャー初優勝をつかみ取ったのだ。

 お互いに言いたいことを言い合える関係が醸成されていた事が、メジャー初制覇に繋がったことは疑う余地がない。

 「関係の長い選手とコーチには積み上げてみたものがある。すべてわかっているのが強みだ」

 コーウェンはそう語る。

 以前コーチングの殿堂、マイク・アダムスもコーチングには一定の時間が必要だと言っていた。

 「選手とコーチというのは、長い年月掛けて熟成されていくものだ」

 今年のメジャーチャンプのコーチたちは、ただ単に「間違っているものを正しく矯正をする」というだけではメジャーを勝てるものではないということを示してくれた気がする。


●トップクラスの仲間入りを果たした松山


 メジャー優勝には至らなかったが、松山英樹にとっても躍進の年になったことは間違いない。特にここ数カ月の成績は驚異的だ。

 松山は現在、特定のコーチを付けずにツアーを転戦している。さらに日本ツアーにもスポットで参戦しており、試合に出るのもさることながら、日米間の移動だけでも体への負担は相当なものだ。

 このような選手はPGAツアーでは稀なことであるが、結果を残していることからも、どのようなコンディションでも自分のスイングを一定に保つ能力がずば抜けて高いということが言えるだろう。

 PGAのコーチたちの評価を聞いても、メジャーで勝てる実力はお墨付きだ。

2016年大活躍の松山英樹
2016年大活躍の松山英樹

●メジャーの勝利を狙うには


 メジャーを狙う選手はいい意味でメリハリが効いている。4大大会に合わせて年間の出場スケジュールを決めるのだ。シーズンオフ明けのPGAツアーの開幕戦や、オリンピックのようなスポットの大会にトップクラスの選手の出場辞退が多いのは、こういった理由もある。

 先日、けがから復活を遂げたタイガー・ウッズも体への負担を考え、今季はメジャーに的を絞り出場試合を限定してツアー参戦するだろう。

 松山の場合、その優れた調整能力と体力があるため、他のトップ選手と比べ休みが少ない傾向に思える。また、トップ選手がオフの期間に充て、出場をセーブする10月~12月の期間もほとんど休むことなく試合に出場するなど、長期の休養を設けることはあまりしていないようだ。

 こういった松山のストイックさは練習にも表れる。コーチがいないため、練習はおのずと「自分が納得するまで」続けることになる。

 「ヒデキはドライビングレンジでボールを打ちすぎる傾向がある」

 たびたび松山にアドバイスを送っているピート・コーウェンは松山の身体への負担を心配していた。昨年患った手首のけがなどを発症させないように、コンディション調整が重要になるだろう。

 そして、わずかなミスも許さないというメンタルは、自分を追い詰め、ストレスになることもある。

 時には彼の長所でもある勤勉さを捨てる事が、メジャー初制覇というステップアップには必要かもしれない。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)