ゴルファーは常に相性に悩まされ続ける。ギアとの相性、コースとの相性などなど。

 今週ハワイで開催されるソニーオープン。かつて青木功が優勝したこの大会で、「相性がよい」のは38歳の中堅、ジミー・ウォーカーだ。

 まだPGAツアーで勝利を手にしたことがなかった2011年に4位に入ると、初勝利を挙げた2014年にはキャリア2勝目をこの大会で飾る。さらには翌年にも連覇を達成し、相性の良さを見せつけた。

 その相性の理由はウォーカーの持ち球にある。ソニーオープンが開催されるワイアラエカントリークラブは左ドッグレッグが多いため、ウォーカーのようなドローヒッターに有利だからだ。特に勝負のかかるバックナインは半分が左ドッグレッグとなり、優勝したときのウォーカーは後半にバーディーを量産して勝利を手にした。

ジミー・ウォーカー(ロイター)
ジミー・ウォーカー(ロイター)

●キャリアを一変させるコーチ


 もう一つ、ウォーカーと相性の良さをみせているのが、コンビを組むコーチのブッチ・ハーモンだ。ハーモンといえば過去にはタイガー・ウッズのコーチを務めたことでも知られ、現在ではダスティン・ジョンソンなどが師事する、言わずと知れた超一流のコーチだ。

 「父と組んでからジミーは勝てるようになった。」

 今でこそ、全米プロゴルフ選手権を制するなどトッププロの仲間入りを果たしたウォーカーだが、ハーモンと出会った当初は鳴かず飛ばずの状態だったとブッチ・ハーモンの息子、クラウド・ハーモン3は語っていた。


 そんなウォーカーとコーチングの契約を結ぶことになったのは、意外にもハーモンのほうから持ちかけた話だという。ウォーカーの才能を見いだし、「数試合帯同するのはどうか」とスカウトしたというのだ。

 ウォーカーは2001年にプロにはなったものの、長く下部ツアーでくすぶっている状態が続いた。一時はツアープロとしてのキャリアを諦めることも考えていたと言い、ハーモンにコーチング料を払える状態ではなかったそうだ。

 「私がハーモンにコーチングフィーを払える状態でないことを伝えると、彼は『それはいらない。その代わり君が優勝をしたときにうまいワインをくれればいい』と言ってくれたんだ」

 その後、ハーモンとタッグを組んでウォーカーは見事に優勝、約束通りハーモンにワインをプレゼントする。


●見いだす能力と、信じる心


 この2人のタッグが成功したのは、ハーモンの才能を見いだす能力と、そのハーモンを信じて忍耐強く取り組み続けたウォーカーの信じる心による。

 「ハーモンに最初に会ったとき、彼は『君を信じている。君には才能がある。持ち備えた才能を使いこなせていないだけだ』と言ってくれたんだ」

 この一言でウォーカーはハーモンについていくことを誓う。

 キャリアが順調でなかったこともあり、ウォーカーには捨てるものがなかった。誰よりも忠実な生徒として忍耐強くスイングの再構築に取り組んだのだ。仮にもプロとしてツアーで戦うレベルの選手が、今まで身につけていたものをすべて取り壊して一から新たなものに取り組む恐怖は想像に難くない。

 ドローヒッターのティーチングに定評のあるハーモンは、独自の理論を時間をかけてしみ込ませていった。

 現在ハーモンに師事しているジョンソンやスネデカーなどのスイングを見ると、そこまで「ブッチ・ハーモン色」の強いスイングとは言えない。しかしウォーカーは、体重移動や切り返しの動き、スイングプレーンなどがハーモンの目指す理想のスイングに近く、長い間ハーモンの教えに忠実だったことが伺える。

 前回2連覇後の2016年のソニーオープンのガイドブックには、優勝を決めたグリーン上でウォーカーに駆け寄り、抱きつく幼い2人の男の子の写真が使われていた。子供たちと抱き合うウォーカーの笑顔は、もう戦う男の顔ではなかった。

 プロゴルファーのキャリアを断念せざるを得ないほどの幾多の苦難を乗り越えたウォーカー。結果が出なかった時期に支え続けた家族とコーチ。ウォーカーの続ける努力が今後も続く限り、多くの人たちに感動と勇気を与えるストーリーは続いていくだろう。


●コーチを変え続ける元世界ランク1位


 特定のコーチと長く取り組んだことで成功を手にした選手もいれば、その逆に相性の良いコーチと出会うことができずに苦しむ選手もいる。

 過去、世界ランク1位まで上りつめたリー・ウエストウッドもその一人だ。デビッド・レッドベター、ピート・コーウェン、ショーン・フォーリーなど多くのコーチに指導を受けたが、うまくいかず、現在では再びコーウェンに師事している。

 アマチュアにも共通しているが、コーチやスイング理論を頻繁に変えてうまくいかないプレーヤーは非常に多い。スイングの改造や考え方を変えることは時間がかかるが、その取り組みの途中で結果が出ないことに我慢ができずに、やめてしまうのだ。そしてまた別の取り組みを始めるという繰り返しだ。これでは毎回一からやり直しで前に進まない。

 これは過去の成功体験があるプレーヤーほどその傾向が強く、取り組みの途中でうまくいかないと疑心暗鬼になり、過去の成功体験に立ち返ってしまったり、他の新しい方法に救いを求めてしまうからだ。


●プロよりもコーチを変えるアマチュア


 「いろいろスイング理論やコーチを試したんだけどダメなんですよ」という相談を受けることがある。私はその場合、何を試してきたか聞くことはほとんどない。そのかわり必ずこの言葉をかける。

 「今回は最低半年は我慢できますか?」

 アマチュアの場合、上達がストップしているのは取り組んできた内容が間違っているのではなく、続けられなかったことが問題の本質である場合がほとんどだ。

 こんなことを言ってしまうと乱暴かもしれないが、アマチュアの場合スイング理論はなんでもいいので、続ける事が何よりも大事だと思っている。一つの理論が身に付かないうちにいろいろと試してスイングがグチャグチャにならないように、方向性を定め根気よく続けることが上達への第1歩となる。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)