直近6試合で優勝4回、2位が2回と破竹の勢いだった松山英樹。だが先週ハワイのワイアラエCCで行われたソニーオープンinハワイで輝きを放ったのは、こちらも若手の筆頭格、ジャスティン・トーマス(米国)だった。

 前週優勝したSBSトーナメントからの好調をそのままに、初日にイーグルスタート、最終ホールもイーグルで締め59をたたき出すと、2日目以降も64、65、65と圧巻のスコアで完全優勝を果たした。

ソニー・オープンで優勝したジャスティン・トーマス(AP)
ソニー・オープンで優勝したジャスティン・トーマス(AP)

●松山をも凌駕する大器


 3代続くプロゴルファーの家系で育ったトーマスはジュニア時代からティーチングプロの父親から英才教育を受けてきた。松山の1歳年下の23歳ということもあり、PGAツアーの選手の中では体の線が細いほうだが、ドライバーの平均飛距離は300ヤードを超える。今回も14番ホールの左ドッグレッグのホールでほかの選手がレイアップをする中、300ヤードのキャリーで左の林の上からショートカットをするなど、本人も飛距離には自信があるようだ。

 ただワイアラエCCはハザードやバンカー、林が効いていてショット力の試されるコースだ。決して飛距離だけではスコアを伸ばすことはできない。そんなワイアラエでビッグスコアをたたき出せたのは、ショットも一級品であるという事にほかならない。

 トーマスはスイング中、体と腕のシンクロがとれていて常に体の正面でボールをとらえている。そのため方向性の精度は高く、スピンコントロールも抜群だ。

 体と腕のシンクロがとれている選手は、アプローチでもインパクトゾーンのクラブ軌道が安定している。そのためハワイ独特のバミューダ芝でもボールにしっかりとコンタクトでき、影響を受けづらかったのではないだろうか。


●メンバーも攻略法を知らないバミューダ芝


 ハワイのコースで必ず話題にのぼるのが、独特の芝、バミューダ芝の攻略法だ。細く粘るバミューダ芝はどこにどれだけ飛ぶか予想がつきにくい。芝にスッポリ埋まったり、きつい芝目に影響されたりして距離感を合わせることが難しい。特にやっかいなのがグリーン周りからのアプローチだ。

 長年ワイアラエのメンバーだという男性に攻略法を聞いたのだが、彼は笑って答えた。

 「アプローチで逆目に球がある場合は、あきらめる事だ。そこから寄せようなどと欲を出してはいけないよ」

 ウェッジを使い、いつも通りの小さな振り幅で攻略しようものなら、ヘッドが逆目の芝に負けて抜けないか、逆に浮いたボールの下をくぐってしまいだるま落としになる可能性が高い。

 「アイアンのリーディングエッジで、上からコツンと当てるんだ。球は浮かないが前には飛ぶ」

 これも先ほどのメンバーの言葉だ。カップが近くてもまずは脱出を最優先にしなくてはならないほど、攻略が難しい。以前、青木功がこの大会を制したが、転がしの名手である青木がこのコースを制したのは決して偶然ではない。

 今回、練習日に岩田寛はアプローチ練習場でロブショットの練習に多くの時間を費やしていた。少雨でグリーンが硬いハワイのコースでは、このロブも攻略法の一つだ。通常のアプローチよりもヘッドスピードが速いロブショットは、バミューダ芝に負けにくくさらには高い球で硬いグリーンでも止まりやすい。

 この冬、南国でゴルフの予定があるアマチュアは、この2つの方法を覚えておくと役に立つかもしれない。どちらの打ち方もスイング中に緩まずしっかりとフォローを出すことがポイントだ。

ソニー・オープンに出場した松山英樹
ソニー・オープンに出場した松山英樹

●試行錯誤の松山と、可能性を秘めたトーマス


 ワイアラエのもう1つの特徴はドローヒッターに優位なレイアウトだ。特にバックナインでは左ドッグレッグのホールが続くため、本来フェードが持ち球の松山はドローを打って対応していた。

 持ち球とは逆の球を打ち続けた影響か、フェードのかかりが悪く、アイアンショットでピンの左に外すシーンがいつもより多く見られた。初日の17番パー3では、珍しく7番アイアンを引っかけてグリーン左のバンカーに入れるというシーンがあった。

 トップクラスのプロは当然のように球筋を打ち分けるが、持ち球ではない球筋を打つ際にどの程度曲げるのかスピンコントロールがキモになる。ワイアラエと同じくドローヒッターに優位なホールが多いオーガスタを、松山が攻略するためには、このドローの精度を上げる事が不可欠だ。

 今回単独2位の五輪金メダリストのジャスティン・ローズ。彼は松山と同じフェードヒッターだが、ホールによって球筋を打ち分けていたのが印象的だった。

優勝したトーマスはドローヒッターでコースとの相性が良かったとはいえ、先述の通りショットを見ると高いレベルで球筋をコントロールする技術も備わっているように思う。

 またトーマスは、パッティングでも強気のタッチで攻める場面が多くみられた。目のきついハワイのグリーンとは違った難しさのある高速グリーンのオーガスタで、どのようなパフォーマンスが出せるかも楽しみの一つだ。

 メジャー制覇を目標に掲げる松山。同世代の強力なライバルとともにさらなる成長が期待される。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)