先日アリゾナで開催されたウェイストマネジメント・フェニックス・オープンの取材で会場を訪れた際に、フィル・ミケルソンのコーチをつとめるアンドリュー・ゲットソンに遭遇した。ゲットソンは普段アリゾナの近くのコースに常駐しているのだが、その前週にカリフォルニアで開催されたファーマーズインシュランス・オープンの会場にも来ていた。
●ほぼ”何もしない”、ミケルソンのコーチ
PGAツアーのコーチの中にはツアーに同行しないコーチもいるが、ゲットソンはかなり頻繁にコースを訪れるタイプのコーチだ。昨年、直接技術指導を受けたことがあったため、ミケルソンの近況などを聞いてみた。
「調子はまずまずだ。ティーショットの精度が完璧ではないけれど大きな問題ではないよ」
ミケルソンはヘルニアの手術を受けてから間もないが、しっかりとクラブを振り切ることができていた。
せっかくの機会だったので私はゲットソンの1日を追うことにした。
ツアーコーチは練習日から選手に帯同することが多いが、ゲットソンもこのタイプだ。
フェニックス・オープンでは練習場や練習ラウンド、本線のラウンドで、常にミケルソンの側にいてスイングをチェックしていた。
時にはスマートフォンでスイングを撮影をすることもあるが、それをミケルソンに見せるのはほんの数回だ。とにかく辛抱強くミケルソンのスイングを見続けている。本当にほぼ見ているだけなので、はたから見れば何もしていないように映るかもしれない。
ミケルソンはキャリアも長く、しかもスイングについて相当な見識を持った選手だ。そのためいまさら、下半身の使い方がどうだとか、グリップはこうだとか技術的な指導は必要としていない。しかし、選手だけでは日々のスイングのちょっとしたズレを把握したり、どのようなスイングを目指していくべきなのかというロードマップを組むことは難しい。
だから自分の動きの確認とプレーの方向性や、それに対する取り組み方を決めるアドバイザー的な役割として、ゲットソンを必要としているのだ。
そんな調子で、ゲットソンは練習日から本戦までただひたすらにミケルソンのスイングを見続ける。おそらく彼は世界一ミケルソンのスイングを知り尽くした男だ。
●誰よりもコースに長くいる人気コーチ
人気コーチともなると契約選手が3人以上同じ大会に出ているということもある。
例えばダスティン・ジョンソンやジミー・ウォーカー、ブラント・スネデカーのコーチを務めるブッチ・ハーモン。ファーマーズインシュランス・オープンには3人の契約選手が出場しており、水曜の練習日には朝の6時前にはすでにコースに来ていた。ハーモンは毎試合がこんな調子で、もしかしたら大会の運営者と同じくらいコースにいる時間が長いかもしれない。
ハーモンはツアー会場でのティーチングに全くビデオを使用しない。でもそれは時代に取り残されているのではなく、自分の目で見た情報の精度が高いことを知っているからだ。
ハーモンを観察していると、彼が見ているのは単に選手のスイングだけではない事に気づく。スイング前のちょっとしたしぐさや、ラウンド中のリズムなどもくまなくチェックをし、選手の調子を読み取っているのである。
そういったスイング以外の部分も見たうえで、選手に的確な言葉をかける。こうした観察眼と経験が人気コーチたるゆえんかもしれない。
●つきっきりが最善とは限らない
コーチと選手と契約を結びながらもあまりコースに姿を見せないコーチもいる。先日AT&Tペブルビーチ・ナショナル・プロアマで優勝を遂げたジョーダン・スピースのコーチ、キャメロン・マコーミックもその一人だ。
今年に入ってスピースが出場したソニーオープン・イン・ハワイとウェイストマネジメント・フェニックス・オープン試合には帯同していなかった。スケジュールによってはメジャーにも帯同しない場合もあるようだ。
スピースとマコーミックはPGAツアー参戦以前からタッグを組んでおり、マコーミックはスピースのスイングを知り尽くしている。そのため普段はスイングの映像をやりとりしてチェックしたり、メールなどのテキストメッセージでメンタル面などをケアしながらコーチングをしている。
先日ツアーに復帰したタイガー・ウッズのコーチ、クリス・コモも復帰戦となるファーマーズインシュランス・オープンの会場に姿を見せていなかった。
これは選手のタイプによるのだが、中にはコーチはつけたいがつきっきりは嫌だというプロもいる。そういった際にはこのリモートでのコーチングを選ぶケースも多いようだ。
話は変わるが、PGAツアーで3勝を挙げているビリー・ホーシェルはコーチのトッド・アンダーソンと常に行動を共にしている。このホーシェル、先日バンカー練習場で目玉の打ち方をアンダーソンに実演してもらいレッスンを受けていた。さながらバンカーが苦手なアマチュアゴルファーへのレッスンのようだった。ホーシェルは仮にも2014年にはプレーオフで年間王者に輝いた選手である。
コーチもいろいろだが選手もいろいろである。
◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/
(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)