先週デビッド・レッドベターの松山評を紹介したが、今や最注目選手の1人になった松山英樹(25=LEXUS)。他にもさまざまなコーチがその実力に言及している。

 「ヒデキがメジャーで勝つとしたら、それはマスターズだ」

 ヘンリク・ステンソン、ダニー・ウィレットなどのメジャー優勝者を育てたピート・コーウェンは語る。

 「オーガスタは2オンが可能なパー5が多く、距離を必要とするパー4も少ない。飛距離ではなく方向性に強みを持つヒデキには有利だ。またラフが短いため、アイアンショットでパワーが必要とされないのもポイントになる」


デル・マッチプレーに出場した松山英樹
デル・マッチプレーに出場した松山英樹

 高身長で手足が長くパワーのある欧米系の選手は、飛距離が出るし、長いラフからのショットを苦にしない。全英オープンや全米オープンでなどは、そういったショットを要求されるコースが多い。

 しかしオーガスタは落としどころが決まっているので、コントロールの精度に強みを持つ松山にはアドバンテージになるという。


●オーガスタとの相性がよい


 「ヒデキに足りないものは経験値だろう。メジャー最終日の優勝争いの経験をもう少し積む必要がある。そして完璧なプレーをしようとしすぎないで、本能や才能を信じてプレーすべきだ」

 メジャーでの勝ち方を熟知するコーウェンはプレッシャーのかかる場面で本来のパフォーマンスを出すために、自信を持ってプレーすることの重要性を説いた。

 これまでにコーウェンは何度か松山に技術的なアドバイスを送っている。

 「ヒデキはトップで間を取る独特のタイミングでスイングするが、プレッシャーのかかる場面でいつも通りのスイングができるかがカギを握るだろう」

 松山の強みであるショットの精度が発揮されればチャンスはあるはずだ。


●メンタルがカギを握る


 コースとの相性の良さを挙げた一方、メンタル面の重要性にも言及したコーウェン。

 リディア・コやアリヤ・ジュタヌガーンなどメジャーチャンピオンのコーチを務めるゲーリー・ギルクリストもまた、メジャーの優勝をつかみ取るにはメンタルが大きな要素になると語る。

 「松山は世界のトップ5に入る選手だから優勝候補の一角であることは間違いない」

 そう前置きをした上で、それが必ずしも強みにならないことがあると言う。

 「松山はマスターズという大会、オーガスタというコースをリスペクトしているだろうし、日本からの期待も背負っているだろう。このことが逆にプレーを難しくしてしまう要因になるかもしれない。技術レベルが非常に高くても、グレッグ・ノーマンやジョーダン・スピースのようにサンデー・バック9でメンタル面が原因で崩れてしまうことが往々にしてある。だから、決勝ラウンドは練習ラウンドのつもりでラウンドするつもりくらいがちょうどいい。

 その点ジョン・ラームはメンタル面の強い選手だと思う。彼はまだ若いからプレッシャーはないだろうし、メジャーで良いプレーができるだろう。」

 ギルクリストは優勝する選手の条件として、コンディションの面も挙げた。

 「優勝予想は難しいけれど、シンプルに来週調子が良い選手が勝つだろう。DJ(ダスティン・ジョンソン)が調子を上げてきているのはさすが。メジャーに向けたコンディションの整え方を分かっている。キャリアの長い選手やメジャー優勝経験者はこのあたりが強みになる」


●マッチプレーで垣間見たジョンソンの強さ


 直近のデル・マッチプレーで優勝を果たしたダスティン・ジョンソン。コンディションの調整もさることながら、1対1になったときの強さが大きな武器だというのは、マットクーチャーのコーチ、クリス・オコネルだ。

 「マッチプレーとストロークプレーは戦い方、求められる能力が全く異なる。ストロークプレーは、プレーヤー対コースの戦い。ストロークプレーであれば、選手は自分のプレーにだけ集中できるが、マッチプレーは積極的に相手が何をしているかに応じて戦略を練らならない」

 マスターズはむろんストロークプレーだが、最終日のバックナインで優勝争いをしている選手は、マッチプレーで勝つ要素も必要になってくる。

 「最終日のバックナインでは、優勝スコアのラインがはっきりと見えてくる。追いかける展開ではトップの選手、追いかけられる展開では2位以下の選手を常に意識する。これはまぎれもなくマッチプレーの要素だ。

 選手は常に相手のナイスショットを予想してプレーをしなければならない。対戦相手が素晴らしいショットを打つと予測し、リカバリーの準備をいつもしていなければいけない緊張感がある」

直前のデル・マッチプレーで、3戦を1勝1敗1分けとして1次リーグ敗退となった松山。

 この敗退がメジャー初戦への糧になったと願わずにはいられない。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)