今年最初のメジャーとなったマスターズは、スペインの実力者セルヒオ・ガルシアが、イングランドのジャスティン・ローズをプレーオフで退ける劇的な展開で幕を閉じた。


●プレーオフに進出した欧州勢

 上位10人の中でアメリカ人は3人。イングランドのダニー・ウィレットが勝利した昨年の大会では、4人だった。この数字が多い、少ないという議論はさておき、近年のヨーロピアンツアーは賞金額も上がり、ヨーロッパ以外の選手が多数参戦するなど、「PGAツアーが1強だ」と言い切れないほど選手層が厚くなっている。

06年の全英オープン(ロイヤルリバプールGC)でブッシュから球を出す谷原秀人
06年の全英オープン(ロイヤルリバプールGC)でブッシュから球を出す谷原秀人

 ほとんどの試合を米国内で開催するPGAツアーとは違い、ヨーロピアンツアーはヨーロッパ各地はもちろん、中東やアジアでも多数の試合が開催される。移動が多くコンディション調整が大変で、年間を通して出場するとそのあたりの能力が磨かれる。

 また、転戦する各地での環境にも適応する必要がある。気温はもちろん、湿度や風、またそれに伴って各地の芝質にも違いが出る。おのずとアプローチの引き出しは増え、タフな環境でもスコアメークする術が身についていく。

 今回のオーガスタは練習日から気候の変化が激しく、風も強く吹き選手たちを苦しめた。プレーオフに残った2人はともに欧州ツアーを主戦場として戦った時期がある。その経験が、今回の結果に結びついたのかもしれない。


●コースの違いがスイングに特徴をもたらした

 マスターズを現地で見ていて思ったのが、アメリカとヨーロッパのコースの特徴だ。

 アメリカのコースは距離が長く、池やOBなどハザードが両サイドにあり、割と「分かりやすい」人工的に造られたコースが多い。とにかくそのハザードにつかまらないように、真っすぐな(フェアウェイなりの)距離を稼ぐ球筋が要求される。どちらかというと、日本のゴルフ場もこのタイプのコースが多い。飛距離の出せるロングヒッターが有利だ。

 一方、全英オープンなどで見るスコットランドに代表されるようなリンクスは、それとはまったく異なり自然の地形を生かした造りだ。一見すると平らで簡単そうだが、フェアウェイはうねり地面は固い。ティーショットを曲げてフェアウェイを外してもバンカーが「助けて」はくれず、背の高さほどもあるフェスキューやブッシュにコロコロと入って行ってしまう。そうなるとボールを発見できればまだラッキーなくらいで、ロストボールのペナルティーを払わなければならない。

 バンカーも大きさは控えめなものの深く掘られたものが多く、プロの選手であっても1度で出ないような設計になっていることもある。また海際に作られているため、風が強く天候の変化も早い。

こうしたコースでは飛距離よりも、球の高さやスピン量のコントロールがスコアメークのカギを握る。

デビッド・レッドベター
デビッド・レッドベター

●ティーチングから見る米と欧の違い

 このコースの違いは、当然ながら、そこで戦う選手たちのスイング形成に影響を及ぼす。

 あくまでも一般論ではあるが、デビッド・レッドベターに代表されるようなアメリカのコーチたちは、体の動きをメインにしてスイングを作る。飛ばすために下半身をダイナミックに使い、そこで生まれた力を無駄なくクラブに伝える技術や腕の動きを極力抑える「体と腕の同調」によって再現性を高めることなどを指導する。ダスティン・ジョンソンのように下半身を積極的に使うタイプや、マット・クーチャーのような同調系の身体の動きがメインの選手がこのタイプだ。

 クーチャーはクリス・オコネルというコーチとタッグを組んで、腕の動きを極力抑え、体の動きでクラブをコントロールするミスの少ないワンプレーンスイングに取り組んでいる。

ピート・コーウェン
ピート・コーウェン

 一方、ピート・コーウェンのようなヨーロッパ(英国)のコーチは、腕を積極的に使うスイングを提唱する。球筋をより厳密にコントロールするため、肩の筋肉を積極的に使い、上から下への力を利用してボールに圧力を加えるスイングを指導する。そのため風に強いコントロールされた球を得意とする選手が多い。ヘンリク・ステンソン、ダニー・ウィレットがこのタイプだ。球を上からつぶすように打つため、中弾道系の選手が多い。

 最近では松山英樹や石川遼がPGAツアーに参戦していることで、海外選手のスイングを見る機会も多くなってきた。2人の日本人以外にもアメリカとヨーロッパのスイングの違いに注目をしてみるのも、楽しみ方の一つだ。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)