これまで多くの欧米ゴルフコーチのスイング理論を紹介してきた。スイングは体全体が複雑に連動して動くため、重視するポイントによって多くの理論が存在している。

●パッティングの理論がそれほど多くない理由

 一方、パッティングにはスイングほど多くの考え方がない。それは、パッティングが体全体を使った全身運動ではなく、フェース面でいかに球状のボールをコントロールするかという物理運動という側面のほうが大きいからだ。

 これまで世界中のパッティング専門のコーチに指導方法を学んできたが、パッティングは体に支点を作ってパターを動かす「振り子タイプ」と、掃くようにまっすぐに動かす「直線タイプ」に分かれるという結論に至った。

 パッティングストロークは2つに1つ。ストロークタイプの違いを理解することで、「パターはストレート軌道がいいのか、イン・トゥ・イン軌道がいいのだろうか」などと頭を悩ませずにパッティングをシンプルに考えることができる。どちらのイメージに近いか想像するほうが、おそらくやるべきことが明確になるはずだ。

●オーソドックスなのは「振り子」タイプ

マイク・シャノン氏(左)に指導を受ける筆者
マイク・シャノン氏(左)に指導を受ける筆者

 かつてアーノルド・パーマーやジャック・ニクラウスにも指導したことがあり、現在はマット・クーチャーのパッティングコーチを務めるパッティングコーチのパイオニア、マイク・シャノンにこの考え方をぶつけてみた。

 「ストロークが2つに分けられるという考え方はその通りだと思うよ。多くの選手のストロークを分析し、パッティングコーチの理論や指導を見てきたが、大体どちらかに分けることができると思う」

 オーソドックスとされるのは「振り子タイプ」だ。背中の軸を中心に上半身を回す。パターを動かすのはこの上半身の回転で、腕や手の動きは出来る限り抑えてイン・トゥ・インのヘッド軌道となるストロークだ。

 ロリー・マキロイやヘンリク・ステンソン、ジャスティン・ローズなどヨーロピアンツアー選手を多く指導するパッティングコーチのフィル・ケニオンの理論も、この「振り子タイプ」寄りだ。感覚が鈍い背中や胸などの大きな筋肉のみを使ってパターを動かすため、再現性が高くなりやすいというメリットがある。

ジャスティン・ローズ(右)とフィル・ケニオン氏
ジャスティン・ローズ(右)とフィル・ケニオン氏

●「振り子タイプ」が絶対的な正義ではない

 パッティングでは手先の動きを使うと、緩んだりパンチが入ったりするため良くないとされる。確かに緩みもパンチが入ることも、意図しないタッチになってしまうため良くない動きなのだが、腕や手を正しく使う事で方向性を出しやすくなる打ち方もある。それがもう1つの「直線タイプ」の打ち方だ。

 PGAツアーの選手では、ジョーダン・スピースやアレックス・ノレンなどの選手がこれにあたる。かつてフィル・ミケルソンを指導し、現在はフランチェスコ・モリナリを指導するデーブ・ストックトンは「直線タイプ」のストロークを指導している。

 「左手で大きな筆を持ち、まっすぐの線を書くようにイメージしてストロークするんだ」

 ストックトンの指導法はパターヘッドでインパクトゾーンを掃くように動かすのが特徴だ。パターを動かすのは上半身の回転ではなく手の動きで、ヘッド軌道は「振り子タイプ」よりストレート・トゥ・ストレートに近くなる。

 スピースがそれにあたるが、クロスハンドの選手に多い打ち方である。以前スピースのコーチであるキャメロン・マコーミックが「(左利きのスピースには)左の手の感覚をより重視した打ち方が合っている」と言っていた。左手の甲とフェース面を連動させることで、手の動きを大きくしながらも、意図した方向にクラブを操っていくという打ち方をしているのだ。フェース面をコントロールするためにフェースの開閉が起こりやすいピン型を使いながら、手の力が入りすぎないように太めのグリップを差している理由もそこにある。

フランチェスコ・モリナリ(右)を指導するデーブ・ストックトン氏
フランチェスコ・モリナリ(右)を指導するデーブ・ストックトン氏

●自分はどちらのタイプか

 「振り子タイプ」の打ち方は再現性が高いが、上半身と下半身で別の動きができない人や、胸や肩回り可動域が狭い人には向かない。上半身の回転と一緒に下半身まで動いてしまったり、背中の軸を固定して胸を動かそうとすると、頭が動いたり前傾角度が崩れてしまう人は「直線タイプ」のストロークがおすすめだ。

 「直線タイプ」のストロークにチャレンジする際は、手のひらや甲とフェース面が一体になっている動きをイメージするとよい。そうする事でフェース面の角度に意識が向き、ゆるんだりパンチが入ったりするミスを防ぐことができる。

 無理に軸を意識して頭を固定して窮屈に打っていた人は、「直線タイプ」のストロークを一度試してみてほしい。

ジョーダン・スピース(右)とコーチのキャメロン・マコーミック氏
ジョーダン・スピース(右)とコーチのキャメロン・マコーミック氏

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)