イギリスでPGAが創設されたのが116年前の1901年。スイングを客観的事実に基づいて体系立てて教えるティーチングが一般的になったのは、ここ40年ほどだ。黎明期から活動し、ティーチングをメジャーな存在に押し上げたデビッド・レッドベターとピート・コーウェンは、今もなお大きな存在感を放っている。


●曲げない球を求めるレッドベター


 現在PGAツアーに参戦する選手のほとんどは何らかの形でコーチとの契約を結び、パフォーマンスの向上にはなくてはならない存在になっている。

 「私とレッドベターがツアーに帯同した一番最初のコーチだと思う。」

 PGAティーチング殿堂入りしたマイク・アダムズが言うように、こういった選手とコーチの密接な関係ができあがったのは30年ほど前からだ。そんなティーチングがメジャーではない頃から活動を始めたデビッド・レッドベターとビート・コーウェンという2人のコーチは60歳を超えてもなお精力的に活動をし、トッププロたちのパフォーマンス向上のサポートをしている。

レッドベター氏(右)と筆者
レッドベター氏(右)と筆者

 この2人、くしくも同じイングランドの出身であるが、指導の方法や考え方は異なる。

 自身の理論体系化した「アスレチックスイング」や「Aスイング」といったスイング構築の考え方を生み出してきたレッドベター。彼のティーチングの核となるのは”曲がらない球筋”の追求だ。

 タイガー・ウッズという飛距離の常識を塗り替える選手がツアーを席巻する前の時代は、”とにかく曲がらないこと”を追求する時代だった。この曲がらない球を打つために、レッドベターは体と腕の同調性を重視し、正確性の高い動きを作り上げていく必要があると主張した。

 ニック・プライスやニック・ファルドはレッドベターの指導のもと、この一体感を重視したスイングで勝利を重ねていく。


●球筋のコントロールを重視するコーウェン


 一方のピート・コーウェンは下半身から生み出された力を用いて腕を積極的に使う「スパイラル・スイング」というスイング理論を提唱している。体の動きだけではなく、肩や腕を使う事でよりクラブの繊細なコントロールが可能になる。風の強いリンクスが多いイギリスを中心に活動をしている事もあってか、風に負けない重い球を操りながら、状況に応じて球筋をコントロールすることを重視しているのだ。

 コーウェンが「ボールに圧をかける」と表現するように、上からボールを抑え込むようにインパクトの形を作ることで、ボールとクラブの接する時間を長くして飛距離とコントロール性を高めている。

ピート・コーウェン氏(左)とヘンリク・ステンソン
ピート・コーウェン氏(左)とヘンリク・ステンソン

 欧州、米国の両ツアーで活躍するヘンリク・ステンソンはコーウェンの教え子で、下半身と肩・腕を連動させたスパイラル・スイングを身に付けることでショットメーカーとして大成した。


●名コーチの理論はアマチュアにも通じる


 タイプの違う2人のコーチだが、彼らがプロの選手に教えていることはアマチュアでも取り入れることができる。

 頑固なアウトサイド・イン軌道のスライスに悩む人は、レッドベターの教えを試してみてほしい。レッドベターは近年「アウトサイドに上げて、インサイドから下ろす」ループスイングの「Aスイング」を推奨している。左腕が地面と平行の時にシャフトが垂直、もしくは前傾角度と同じになるテークバックが特徴だ。

 こう書くと手でクラブを操作しがちで、レッドベターの重要視する腕と身体の一体感からはかけ離れてしまうように感じるかもしれない。重要なのはクラブを体の動きで操作する事だ。腕を一切使わずフェース面をボールに向けながら上半身の回転で上げていくことで、クラブはアウトサイドに上がる。右腕の内旋が入った状態で外側に上がったクラブをさらに外から戻すことはできないので、自然とインサイドからクラブが下りてきて、カット打ちが矯正されるのだ。

 プッシュアウトやヒッカケなど振り遅れに悩む人はコーウェンの理論が合う。ダウンスイングで肩を中心として地面方向へ圧を加えるように腕を使えば、シャフトが立ってクラブが早めに下りてくるため球をしっかりつかまえる事ができる。特にダウンスイングでシャフトが寝てしまいがちな中上級者は球筋が安定するだろう。

 真似したいプロが誰からティーチングを受けているかを調べて、そのコーチの教えを取り入れてもいいかもしれない。

ピート・コーウェン氏(左)と筆者
ピート・コーウェン氏(左)と筆者

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)