ジョン・ラームが4ホールのプレーオフの末に競り勝って幕を閉じたキャリアビルダー・チャレンジ。そのラームとは対照的に予選落ちを喫した今年28歳になるPGAツアー5勝のパトリック・リード。「何となく名前は聞いたことはある」という人は多いかもしれないが、日本ではあまりポピュラーな選手ではない。しかし本国アメリカでは、2年に1度行われる欧州との対抗戦ライダーカップに選ばれるなど人気プレーヤーの1人だ。そんなリードはスイングをチェックするコーチを複数契約する珍しい形態を取っている。


●ライダーカップで大活躍したアメリカンヒーロー


 アメリカとヨーロッパの代表選手で争われた2016年10月のライダーカップ。日本ではなじみの薄い試合だが、欧米では4大メジャーよりも盛り上がると言っても過言ではない。選手は代表選手に選ばれることを誇りとし、普段の試合では見られない熱い戦いが繰り広げられる。リードはアーノルド・パーマーを追悼する負けられない戦いで米国勝利に大きく貢献し、同国内ではスタープレーヤーの地位を確立した。


ライダーカップのリード(右)とケビン・カーク氏
ライダーカップのリード(右)とケビン・カーク氏

 3日目までスピースとのコンビを組んでいたが、スピースの影が薄くなるほどの大車輪の活躍で米国チームを牽引した。最終日は世界ランクでは格上となるローリー・マキロイとエース同士の一騎打ちとなった。マキロイが8番パー3で10メートル超のロングパットを沈め、グリーン周りはギャラリーの歓声で騒然となった。そんな雰囲気の中、リードは約8メートルの距離を入れ返し勝負強さを見せつけた。

 「優勝が懸かっていたり、大舞台になった時のリードの集中力、メンタルの強さは一級品」というのがPGAツアーファンの認識だ。トップ選手の中でもリードのようにプレッシャーや歓声を力に変えられる選手はそれほど多いわけではない。

 そんなリードには、ケビン・カークとジョシュ・グレゴリーという2人のコーチがいる。カークがスイングの技術的な調整を行うスイングコーチ、グレゴリーが試合の中でパフォーマンスを最大化させるパフォーマンスコーチをつとめている。2人のコーチをつける選手はしばしばいるが、珍しいのはそれぞれのコーチが担っている領域が重なっているという点だ。


●”聞く力”を持った稀有な選手


 私が最初に2人のコーチを試合会場で出会った時のことだ。

 最初にパフォーマンスコーチのグレゴリーをみつけ声をかけた。

 「あなたはリードのコーチ?」

 「そうだよ。彼のスイングをチェックしているよ」

 次にカークに声をかけた。

 「あなたもリードのコーチ?」

 「そうだよ。僕もリードのコーチさ。彼のスイングをチェックしているよ」


リード(右)を2人で指導するグレゴリー氏とカーク氏
リード(右)を2人で指導するグレゴリー氏とカーク氏

 このようにスイングを2人のコーチで指導するのは非常に珍しいパターンで、当初はその役割分担について理解するのに時間がかかった。スイングコーチをつける場合、パフォーマンスコーチの役割を兼ねてコンディショニングや練習メニューの策定についてもアドバイスをすることが多い。しかし2人はスイングとパフォーマンスという役割分担を担いながら、スイングの技術的な点についてアドバイスを送っていたのだ(ちなみにこの時、パッティング専門にデーブ・ストックトンというコーチとも契約しており、リードには3人ものコーチがいた!)。

 当然ながらスイングの構築という同じ領域について複数人が意見をすると、その内容に差異が生まれる事がある。そのため、指導する側が指導方針を明確にし意思統一をすることはもちろん、受け手の選手にも取捨選択のスキルが求められる、

 リードはとてもロジカルにものごとを考えるタイプの選手だそうだ。さらには何事も自分で納得をした上で取り組む姿勢を貫いているという。そういった性格だからこそ、複数のコーチからアドバイスを受けそれを自分なりに解釈して取り入れる事ができているのだろう。

 ライダーカップでマキロイに勝利したとき、リードは感情を前面に出し観客をあおり自らを鼓舞していた。そんな姿を間近で見たので「気持ちを前面に出していく選手」というイメージを強く持っていた。

 しかし実際はとても論理的で、自らが目指す方向をしっかりと客観視できるクールさも兼ね備えていた。

 若手の台頭でツアーの中では中堅のポジションに足を踏み入れている。熱い気持ちと冷静な洞察力の歯車が合えば、今年あたりメジャーチャンピオンの一員になれるのではないだろうか。

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)