片岡大育(だいすけ、26=Kochi黒潮CC)が、プロ転向9年目にして初のツアー優勝を果たした。5月24日が最終日だった滋賀県の名神八日市CCで行われた「関西オープン」。私も20日の練習ラウンドから取材に行っていた。片岡は香川西高時代から知っている選手だった。加えて非常に礼儀正しい青年で、記者も人の子、応援したいプロゴルファーの1人だけに、この優勝は自分にとってもうれしい出来事だった。

 片岡が優勝した明くる日25日付の記事で、優勝までにどんな思いでラウンドしたのかや、人となりは触れた。ここでは、片岡の技術的なことを書き記しておきたい。

 現在、日刊スポーツの火曜日付のゴルフ面では藤田寛之のレッスンを展開している。私はその担当をして同プロのスイングを見ている。ゴルフファンのみなさんならお気づきのように、独特のスイングからやや左に出ていってから右に曲がっていくフェードボールを持ち球にしている。また、いずれ同プロ独自のスイングを本紙で解剖する日もあるのだが、同プロのスイング軌道は「イン・ツー・イン」で、あのフェードボールを打っている。

 ここでの詳しい解説は控えるが、普通のフェードないしスライス系の球筋は、片岡がそうであるように「アウト・サイド・イン」の軌道によって生まれるものだ。クラブを外から内に入れてボールに右回転をつける。そのままなら右へ行きっぱなしになるのを左に振り抜く。ややボールは左に出たあと、右に回転してドライバーショットならちょうどフェアウエーをとらえるという寸法だ。アマチュアに多く見られる「カット打ち」もこの軌道であるが、これだと弱いスライスボールしか出ないが、プロや上級者はこの軌道で左サイドにかべを作りながら、左に強く振り抜くので、いわゆるパワーフェードが出るのである。

 片岡は13歳でゴルフを覚えてから昨年までは、この「アウト・サイド・イン」の軌道で打ってきた。これで打ち出すフェードボールは、安定感があるがドライバーショットでは飛距離が出ない弱点がある。現に昨年の片岡の平均飛距離は270ヤードを切っており、ツアー選手の中でも、はっきり言って飛ばない部類の選手だった。うまいショートゲームで13、14年とシード権を取り、かなり売れてきたツアー選手だが、勝つまでには至らなかった。

 そこで、片岡は今年のシーズン前から一念発起する。長く見てくれている青山充コーチとともに、今までのスイング軌道とは真逆の「イン・サイド・アウト」に振って、ドローボールを打とうということに取り組んだ。1度身についたスイング軌道を変えるのは非常に勇気がいることだ。まして、プロゴルファーとして勝てないまでも、ある程度成功している。もし、転換に失敗したら、スイングがバラバラになって不調に陥ることもある。

 そんなリスクを負いながら、「飛ぶスイング」「勝つスイング」に片岡は取り組んだ。それが、開幕から4試合目の関西オープンで花開き、優勝してしまうのだから、まさしく大きな賭けに勝ったと言える。ドライバーの飛距離が「15ヤード伸びました」と言う。すると、パー4なら第2打で使うアイアンの番手が1ないし2番手違う。プロは短いアイアンになればなるほどピンに近づける精度は上がってくるから、バーディーが生まれる確率は上がる。パー5なら第2打でグリーン周りにもいけるのでさらにバーディーが…ということは言うまでもない。

 ツアーをコースやテレビ観戦する際、プロゴルファーがどんなスイングでどんな球筋でフェアウエーをとらえているのかを凝視しても面白いと思う。どこまで飛んだかなどばかりを追うのではなく、こんな見方をすると、自分のスイングはどうなっているのかなどの比較や確認ができて上達するかもしれない。

 片岡のスイング軌道ばかり書いてきたが、実は注目は彼のフィニッシュだ。まったくブレない、不動のフィニッシュを取る。このフィニッシュが決まったときは、片岡のボールは曲がっていない。私が見る中で、日本の男子ツアーで最も美しいフィニッシュを取る選手だと思っている。今度はぜひ、そこにも注目して見ていただきたい。【町野直人】