11月17日の会見中、日本ゴルフ協会(JGA)は報道陣の質問に答える形で、岩田寛(34=フリー)に2年間の出場停止処分を科したことを初めて認めた。今季から本格参戦する米ツアー開幕戦に出場するため、エントリーしていた同じ10月第3週開催の日本オープンを欠場したからという理由だった。

 そもそも、岩田には、10月20日付の書面で処分内容を通知していた。トッププロが出場停止となる異例の事態。にもかかわらず、約1カ月間公表しなかったことになる。「個人の名誉に関わるから、どうかと思って公表はしなかった」。戸張捷常務理事(70)の説明を聞いても違和感だけが残った。

 次に湧いてきたのは、処分が重すぎるのではないかという疑問。二重エントリーへの制裁自体は仕方ない。日本オープンにエントリーする時点で米挑戦の可能性を伝えていなかったのは岩田側の落ち度だ。それでも、明確な規定がない中での“2年”は、やはり厳しいと感じる。

 戸張氏は「彼は1年間、(米ツアーの出場)資格を持っている。(出場停止の期間が1年では)現実の出場停止というよりは、向こうで出られるわけだから」と説明したが、現時点で岩田は来季米ツアーのシードは持っていない。仮に1年間の出場停止、16年10月に開催される日本オープンに出られないだけでも制裁としては十分な意味を持つように思う。「(10月開幕の)アメリカではなく、日本のカレンダーに合わせた」と重ねて言われても、やはり“2年”の根拠としては説得力に欠ける。

 さらに、JGAは「どのような処断でも受ける」という返答が岩田側からあった点を強調していた。しかし、おわびの手紙を出そうとした岩田に、そういった文言を盛り込むよう勧めたのはJGA関係者だと証言する関係者もいる。

 厳格な対応によって日本オープンという大会の権威を示そうとする思惑もあったのだろうか。「エントリーは神聖なもの。エントリーした時点でパンフレットに掲載したり、主催者としての責任が生じる」とはJGAの主張だが、選手側もエントリーフィーを払っている。何より、この処分によって今後、松山英樹(23=LEXUS)や石川遼(24=CASIO)といった米ツアーを主戦場とする選手、今後海外ツアー挑戦を目指す選手が、日本オープンへのエントリーに二の足を踏む事態にもつながりかねない。有力選手の参戦をためらわせてしまうような対応が、ファンのためになるとは思えない。

 今回の一件について岩田は「アメリカでシードを取れるように頑張ります」と話す以外、沈黙を守っている。

 興味深い私案を明かしてくれたプロもいる。松山だ。「2年間は厳しすぎる」とした上で続けた。「処分をするにしても、日本のゴルフ界にとって、いい方法を考えてほしい。例えば(岩田)寛さんが日本オープンで1日、ファンサービスする日を設ける。トークショーでもサイン会でも、ジュニアレッスンでもいい。逆に、来年はどんな理由があっても出なさい、というのもありだと思う。出てくれた方が、寛さんを応援する人にとっては、絶対うれしいじゃないですか」。処分というマイナスな要素もファン目線で考え、前向きな対応を模索する。松山の発想は純粋におもしろいと感じるし、日本の男子ツアーにとって一考の価値はあると思う。

 制度的に改善の余地はないのか。4週前までとなっている日本ツアーのエントリー期限は検討すべき時期に来ていると感じる。シード選手の数や年間試合数に差はあるものの、米ツアーでは前週の金曜日まで認められている。

 今季女子ツアーでは、7月の全米女子オープンで5位に入った大山志保(38=大和ハウス工業)が、エントリー期限に絡んで罰金を払わされそうになったこともある。6月、7月第2週の全米出場を目指していた大山は7月第3週の国内ツアー、サマンサタバサ・レディースの欠場届を提出した。同大会は14年も欠場していたが、全米出場時の長距離移動の疲労を考慮した。ただ、届け出た時点では全米に出場できる保証はなく、「2年連続同一大会欠場」の規定による100万円の罰金を覚悟した苦渋の決断だった。

 結果として全米は大会直前に滑り込み出場を決め、優勝争いまで演じてみせた。そして「海外メジャー前後どちらか1試合は欠場可能」という特例によって罰金を免れたが、選手の海外挑戦を阻害しかねない事態は実際に起きている。

 2年間の出場停止は妥当だったのか、制度的な問題はないのか。そういった議論が深まる気配もないまま、15年が終わろうとしている。5月からゴルフ担当に就任した記者としては、ふに落ちない部分があまりにも多い。もう処分は決定している。ならばせめて、今回のケースを教訓とし、主催者、選手、ファンにとって、よりよい形を考えてほしい。年の瀬に、あらためてそう感じている。【亀山泰宏】


 ◆JGA側の説明による岩田出場停止処分の経緯 岩田は9月10日からの米下部ツアー終盤4試合の入れ替え戦に出場し、今季の米ツアー出場資格を獲得。帰国後の10月、すでにエントリーを済ませていた日本オープンと同週開催の米ツアー開幕戦に出場するため、翌週に迫った日本オープン出場を取りやめる意向をJGAに伝えた。JGAは米ツアーを優先する場合は処分の可能性があることを8日付の書面で通知。岩田側から「どのような処断でも受ける」という趣旨の返答があり、大会事業部会で対応を協議。20日付の書面で2年間の出場停止処分を通告。岩田も受け入れた。


 ◆亀山泰宏(かめやま・やすひろ)1987年(昭62)2月7日、静岡市生まれ。09年入社。プロ野球西武担当、J1仙台担当、整理部を経て15年5月からゴルフ担当。見る影もないが元高校球児。静岡高野球部時代は「いいプレーはするけど時々やらかす」(当時の監督)ため、信頼は極めて薄く、最後の夏は一塁ベースコーチだった。