4カ月ほど前、イ・ボミ(29=韓国)に会うため練習日の女子ツアー会場に足を運んだ。広報大使を務める平昌五輪の開幕に合わせた卓球の五輪メダリスト福原愛(29)との対談企画の取材交渉だった。

 1日目、会場に来ていたのは専属の清水重憲キャディー(43)だけだった。本人は練習に来ないとの連絡があったという。昨年は男子ツアーを担当していたため、女子の試合を取材したのは4月の1試合。イ・ボミは出場していなかった。出直した翌日「久しぶりですね」と笑いながら、すんなり企画を受けてもらえそうな流れになったので非常に助かったが、前日の“空振り”は気になった。15、16年と2年連続で賞金女王に輝いた時に比べて苦しんでいるのは、あらゆるスタッツから明らか。モチベーションの低下を疑った。

福原愛(左)とイ・ボミは出場選手に「がんばれー」とエールを送る
福原愛(左)とイ・ボミは出場選手に「がんばれー」とエールを送る

 シーズン終了後、実現した福原との対談の中で疑問に対する答えを知った。福原が試合で後悔しないために徹底的に練習して不安要素の芽をつみ取る話をした時、自らを戒めるように告白した。

 「スポーツ選手は練習で自信を積み重ねて力にする。練習が一番大事。私は子どもの時からずーっとゴルフをしてきて、頭の90%以上を占めている。でも、去年はちょっと調子が悪くて、今振り返って後悔するのは、練習量が少なくなっていた。体がちょっとしんどいから休んだ方がいいと思ったけど、他の選手を見たら、たくさん練習している。それは(試合でも)うまくいくよねって思った」

 ジュニア時代にはライバルが食事休憩をしている間、コーチの制止も聞かずに1人打ち込み続けていたという練習の虫。日本ツアー参戦後も地道に小技を磨き、隙のない強さを手に入れた。土台の揺らぎには伏線もあった。

 「もうすぐ30歳になるんですけど(以前と比べて)気圧の変化とかにすごく敏感になった。雨の前とか、雨の日とかは体が重くて重くて、回らない感じがするんです。回らない(感じがする)から、もっと(余計な)力が入ってしまう。それ(違和感)が次の週に練習しても直らない。その繰り返しの1年でした。女性の体は、やっぱり変わる。先輩たちが言っていたことは、これだなって。30歳を前にして、それが分かりました」

同い年の福原愛(左)とイ・ボミは対談し、今までのこと、そしてこれからのことを包み隠すことなく話す(撮影・松本俊)
同い年の福原愛(左)とイ・ボミは対談し、今までのこと、そしてこれからのことを包み隠すことなく話す(撮影・松本俊)

 年齢に伴う体の変化に戸惑い、向き合い方を見つけられないまま1年が終わった。ゴルフ界以上に若手の台頭が著しい卓球界にあって、福原が「準備期間は経験を使い、コートに入ったら“ゼロ”になる」と語った時も大きくうなずいた。

 「私は考えすぎて“ゼロ”になれなかった。一昨年の(賞金女王になった時の)私と比べるから。冷静に去年の調子を考えたら(セーフティーにグリーンの)真ん中を狙ってもいい状況でも、(良かった時の)経験でできると思ってピンを狙ってミスをすることが多かったんです」

 過去の成功体験が強烈だった分だけ大きかった苦悩。つらい胸の内を1つ1つ素直に吐き出し、同じトップアスリートとして福原の考えに触れる。その作業を繰り返しながら対談が進むうちに紡ぐ言葉は力強さを増していった。

 「ゴルフは、フェアウエーに打ってもディボットに入ったり、運にも左右されるスポーツ。だから、今年は“諦める”。いい意味で諦める、割り切ることが一番大事かなって。『何で?』と思ってしまうのが一番ダメ。『OK、これがゴルフ』と前向きに受け入れてやっていく。頑張っても結果が出ないのがすごく悔しくて、どうしようかとすごく悩んでいたんですけど、今日、愛ちゃんのおかげで頑張ろうと思えました」

 気力を取り戻し、原点に立ち返る。女王復活の気配が漂う。【亀山泰宏】