小平智(28=Admiral)には、脳裏に刻む尾崎将司のインタビュー映像がある。「優勝を一番感じるのは、トロフィーを掲げている時。それが終わると、一気に次のことを考えるようになる。祝勝会などが進んでいくとテンションも下がってきて、余韻は全くなくなっている」。通算113勝を積み重ねたレジェンドの恐るべきメンタリティーの一端に触れ「何か一緒だな」と共感を覚えた。

 日本で勝った時、優勝を実感するピークはスコアを提出するあたりだったという。徐々にクールダウンしていく頭の中は、次の試合のことに切り替わっていく。RBCヘリテージで日本人5人目の米ツアー優勝を飾った時もそうだった。「(プレーオフで)パットを決めて、クラブハウスに戻る時くらいが一番『優勝したんだな』と思っていた。それからは結構冷静で『(米ツアーに)2年間出られる。今後どうしようかな』みたいなことを考えていた。舞い上がるとかは、なかったですね」。快挙にも、驚くほど落ち着いていた。

 日本で戦っている時と変わらず、淡々と夢舞台の切符をつかんだ。そんな小平だから、帰国してからの周囲の熱狂ぶりは不思議な感覚だった。「生意気かもしれないですけど、日本の優勝と変わらない感覚だった。(逆に)周りの変化に戸惑っています」。確かにコースは難しく、選手のレベルは高い。その事実は受け入れた上で萎縮する必要もない、というのが小平の意見だ。「先入観ですよね。(日米が)別物だと思ってやっているから、別物になる。日本でやるのも米国でやるのも変わらない感覚でやれれば、スポット(参戦)でも成績を残せると証明できたと思うし、みんなもそういう感覚でやれば、絶対、活躍できると思う」と言った。

 松山英樹は米ツアーで不動の地位を築いた。「英樹とかも、たぶんそういう(変わらない)感覚でやっていると思う」。谷原秀人は欧州ツアーのメンバーとして世界を飛び回り、今季から宮里優作も続いた。彼らの背中を見てきた小平にとって、自分の後ろ姿がどう映っているかが気になる。「日本で僕よりうまい選手がいっぱいいる。みんなにチャンスがあると思う。僕が優勝できるんだから『オレでもできる』『世界で活躍しよう』という選手が増えてくれれば、ありがたい。ゴルフは日本だけでやってるものじゃない。視野を広げてやってもらいたい」と訴えた。

 国内凱旋(がいせん)試合となった中日クラウンズ(愛知)を前に、岩田寛と食事をした。かつて米ツアーの壁にはね返された37歳が「谷原さんも世界で頑張っている。チャンスがある以上、オレも絶対、また米国に挑戦する」と言ってくれたことがうれしかった。夢を口に出すことは、小平が心掛けてきたことでもある。「僕は昔から『米国でやる』と言ってきた。言葉にすることで、やらなきゃいけないことが明確になり、行動も変わってくる。そうやって(夢に)近づく」。

 今も新たな目標を言葉にすることをためらわない。「30代でマスターズで“普通に”優勝争いができるようになりたい。常に優勝争いができれば、勝つチャンスも舞い込んでくる。言い続ければ(また)できると思えてきたんです」。そして、付け加えた。「若い人には、目標を口に出して言ってもらいたい」。28歳からの切なるメッセージだ。【亀山泰宏】