今季から日本女子ツアーに“大物”キャディー、トム・ワトソン氏(40=オーストラリア)が参戦している。「すごいでしょ」といたずらっぽく笑う、あの「新帝王」と同じ名前は、欧州ツアーでもプレーしていた父ピーターさんがつけてくれた。3歳からゴルフを始め、オーストラリアでプロになった。04年から転身したキャディーとしての経歴は輝かしい。元世界ランク1位の柳簫然(ユ・ソヨン、韓国)のバッグを6年間担いでいた。

 昨年は名実ともに頂点を極めたシーズンだった。ANAインスピレーションで柳簫然のメジャー2勝目をアシスト。優勝チームの特権である18番グリーン脇の池へ一緒に飛び込んだ。6月には初の世界ランク1位になった。歓喜の裏で、心身ともに限界を感じていたという。文字通り世界を股にかける転戦には、大嫌いな飛行機移動が欠かせない。「いつも時差ボケが抜けなくて。寝る時は、睡眠薬が手放せなかった。メンタルの病気だった」。神経をすり減らし、体調を崩してしまった。

 今季から職場に選んだ日本との縁は、キャディーとなった頃にさかのぼる。ブレンダン・ジョーンズ(オーストラリア)のコーチ兼キャディーとして来日。ジョーンズだけでなく日本人選手のバッグも担ぎ、優勝もした。当時覚えた日本語を今も流ちょうに操る。「移動は楽だし、オーストラリアと時差もほとんどない。食べ物だってヘルシーだから、体調はすっかり良くなったよ」と声を弾ませる。

 そもそも、柳簫然とのコンビ結成は日本での仕事がきっかけだった。11年、当時日本ツアーにも出ていたメジャー7勝の朴仁妃(パク・インビ、韓国)と、トム氏がスポットでキャディーを務めた金ナリ(韓国)が練習ラウンドを一緒に回る機会があった。朴仁妃のキャディーであるブラッド・ビチャー氏(オーストラリア)から「インビと仲のいいソヨンがキャディーを探しているんだけど、どうかな?」と打診された。

 「米国は大変だった。ソヨンじゃなかったら、半年くらいでやめていたと思う。ソヨンは人としても、プレーヤーとしても素晴らしかったから、6年続けられた。メジャーも勝てたし、世界ランク1位にもなれた。楽しかったよ」。かつての“ボス”には感謝しかない。

 今季は主に森田遥のキャディーを務める予定。おぼろげな夢がある。「いずれ日本人選手のコーチをやってみたい」。過酷な米ツアーでの経験から、世界を目指すプレーヤーの手助けになれると感じている。「韓国の選手も含め、米ツアーの選手はいろんなボールが打てる。ドロー、フェード、高い弾道、低い弾道…。日本人はドローならドローだけ、フェードならフェードだけ、という感じで“オンリー”な選手が多い気がする」とシビアに見ている。

 環境の違いが、適応力の差を生む。「バミューダ、ポアナ…。米ツアーは、芝からして毎週全然違う。日本は、ほとんど高麗とベントだけ。グリーンのスピードも大体、12フィートでしょう? 日本の選手がいきなり全米女子オープンとかにいっても、慣れていないと厳しいんじゃないかと思う」と分析を重ねた。

 「今は、とにかく目の前の仕事が楽しいんだ」。陽気な男は日本で明るさを取り戻し、新たな目標に向かって歩み始めている。【亀山泰宏】