世界の壁は想像以上に高かった。

 米ニューヨーク州・シネコックヒルズGCで開催された全米オープン選手権。6月15日の第2ラウンド(R)を終えた秋吉翔太(27)は、悲しげな表情をしていた。まさかの通算19オーバーで148位。振り向くと、後ろには4人しかいなかった。いくつボギーをたたいたのかすら、覚えていない。ただ、第1Rで1つ、第2Rで2つ挙げたバーディーが、せめてもの意地だった。

 「実力がまだまだ足りない。日本ではある程度通用することでも、こちらではできなかった。ここまで打ちのめされるとは思っていなかったですし、やっぱり悔しいです」

 国内予選会を首位で突破。その翌週となる5月末にはミズノオープンで国内ツアー初優勝を果たして、全英オープン(7月19日開幕)の切符までつかんだ。勢いに乗って渡米したはずが、待っていたのは試練ばかりだった。

 「どういうクラブを使ったらいいか。そこから考え直さないといけない。こっちではウェッジはみんな61~62度で、ローバウンスを使っている人が多かった。日本では61~62度は、あまり見ないですから。全英ではこういう結果にならないように、クラブチェックから見直したい」

 ラフは膝丈まであるフェスキュー(細長い草)で、まるで滑り台のようなグリーンも最後まで攻略できなかった。

 「日本ではピン方向に打つ。こっちでは、選手はグリーンの傾斜を使っている。日本では傾斜を使って攻めることはあまりないですし、それをするには距離感と正確性が必要になる」

 あまりにも悲しげな顔でインタビューに応じていたものだから、日本でテレビ観戦していた妻静香さん(26)に心配されたという。「『泣きそうな顔をしているよ』って言われました」。妻は明徳義塾高ゴルフ部出身で、今大会で日本人でただ1人、予選を突破して16位に食い込んだ松山英樹と同級生。プロの世界の厳しさは知ってはいても、これほど世界のトップまでが遠いとは、思っていなかったかもしれない。

 そういえば、サッカーのW杯(ワールドカップ)ロシア大会、1次リーグ初戦となったコロンビア戦でPK弾を決め、日本に金星をもたらした香川真司が、以前にこんなことを漏らしていた。志半ばでマンチェスターUを退団し、ドルトムントに復帰した頃だった。

 「海外に出るまでは、自分は誰よりも努力をしてきたと思っていたんです。でも海外にはもっと、えげつない選手がいた。すごく努力をしていれば、なんとかプロになることはできる。でも世界で活躍するためには、並大抵な努力では無理なんだと分かりました。壁にぶつかって、それでもまだ前に進もうとする。その繰り返しなんです」

 秋吉は来月、全英オープン(7月19日開幕)を控える。

 「これをきっかけにゴルフ人生が変わっていく。このモヤモヤを晴らしたいです」

 どん底からはい上がる姿こそが、美しく、人の心を打つ。

 アメリカの地で味わった挫折を胸に刻み、いつか、秋吉が世界のトップとしのぎを削る日を、見てみたい。【益子浩一】