黄アルム(30=韓国)が、NEC軽井沢72で今季2勝目を挙げた。3日間首位を守る完全優勝。9年ぶりに優勝した大東建託いい部屋ネット・レディースから2週目での圧勝に、完全復活を印象づけた。黄が復活の要因として挙げたのが、メンタルトレーナーの存在だった。

 一時はゴルフからの引退も考えた黄が、2年前に頼ったのが、韓国の世界的プロゴルファー、朴仁妃を指導したチョ・スギョン氏。毎週のように電話でやりとりし、結果を求めず、自分のプレーに集中することを教わったという。

 NEC軽井沢72の最終日も、申ジエや、8打差から3打差まで詰め寄られた松田鈴英の追い上げに「ドキドキしながら1日回った」と打ち明けた。それでも、黄は崩れなかった。「緊張したときこそ、1つ1つのショットに集中したり、自分の足の裏に集中したりする。結果を考えずに、ここでできる最大のことをやろうと思って打った」と言う。

 勝みなみ、小祝さくらといった黄金世代の実力者が、優勝まであと1歩のところに来ていながら、なかなか勝てない。勝は「優勝を意識すると、気持ちが先走って、思うようなプレーができない」。小祝は「自分のスタイルは攻めなのに、なぜか守りになってしまう」と言った。どちらも結果を意識して、本来のプレーができなくなった例だ。

 ゴルフを取材していると、つくづくメンタルの比重が大きいスポーツだと思う。全英リコー女子オープンで4位に入った比嘉真美子が、NEC軽井沢72の初日に2オーバーと出遅れた。「世界最高峰の大会で4日間優勝争いをして、体は大丈夫だけど、気持ちが消耗した」と話した。時差ぼけもあったが「ガッツのあるプレーを出す力が残っていなかった」理由は、メンタルの方が大きかったと思う。

 五輪競技を取材すると、強豪国の野球チーム、バスケットボールチームなど、個人競技ではない団体競技でもメンタルトレーナーは、不可欠な存在だ。日本では、15年ラグビーW杯で日本代表の躍進の陰に、メンタルトレーナーがいたことが話題になった。昨季優勝したバスケットボールBリーグのアルバルク東京が、Bリーグ開幕1年目からメンタルトレーナーを採用したことも、2年目の優勝と無縁ではないだろう。

 世界で活躍する選手を多く輩出する韓国では、実力のある選手の多くがゴルフに限らずメンタルトレーナーの指導を受けている。日本では、それぞれが心の整え方を、年々の経験から自分で学んでいる例がほとんどだ。日本人ほど練習熱心な国民はいないと思う。それでも勝てないで悩んでいる選手は、メンタルコーチの指導を仰ぐのも1つの解決法かもしれない。【桝田朗】