質問すれば、予想以上に良い答えが返ってくる。女子ゴルフの渋野日向子(21=サントリー)の取材は、それが日常茶飯事のように感じる。頭の回転が速く、何よりも人がいい。誰かを傷つけるようなコメントもなければ、成績が伴わない時でも「自分に対して怒っている」と話すにとどめ、ピリピリとした雰囲気を封じ込める。常に報道陣の先にいるファンを見据えて話す。とても21歳とは思えない気遣いには恐れ入る。

そんな理想的な取材対象のはずの渋野の取材を、最近は難しく感じている。頭が良すぎる、人が良すぎるからだ。順風満帆に成績が伴っていれば「しぶこ節」全開の明るい記事で構わないだろう。ただ今年は、3戦連続予選落ちから始まり、その後の最近2戦は予選は通過したが、課題も残った。それでも持ち前のサービス精神と明るさで“予想以上の答え”を返す。歯がゆさ、悔しさがあるのは、痛いほど分かるが、それを上回る前向きな言葉、独特の感性、表現を求めて、こちらも質問してしまう。

メジャー第2戦、ANAインスピレーションでのことだ。今年4戦目で初めて予選を通過して迎えた第3日は「67」の好スコアに「100点に近いゴルフができた」と語った。だが翌日の最終日は一転して「78」とたたいた。特に後半は乱れ、大きくスコアを落とした。前日の流れもあり、最終日のプレーにも「あえて点数を付けるなら」と、自己採点を求めた。すると「前半のゴルフが30、40点だとしたら、後半はゼロに近い。むしろマイナスと言っていいぐらい」と返ってきた。正直、ここまで強い言葉が返ってくるとは思わなかった。

初めての米国での試合、しかもメジャーを4日間戦い終えて「今、やりたいことは」とも聞いた。五輪などの大舞台を終えた選手は「とりあえず、ゆっくりしたいですね」といった答えが多い。渋野はまず「家族に会いたいですね」と答えた。続いて「やりたいことか。うーん、ベッドにダイブしたいですね」と、笑って話した。

出身の岡山で同時期に行われた、国内メジャーの日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯にも出たい気持ちは強かったが「5大メジャー制覇」の夢を追って米国を選んだ。それでも夢に近づくことができず、約2カ月に及ぶ欧米遠征のほぼ中間地点で家族の顔がよぎっていた。直後に思い直して「ベッドにダイブしたい」と加えた。「ゆっくりしたい」と同じ意味だが、家族やファンに心配させまいと明るいキャラクターを演じた。笑顔の裏にある心の葛藤がかいま見えて、こちらも胸が締め付けられる思いになった。

昨年は日本人42年ぶりのメジャー制覇を果たし、国内ツアーでも4勝を挙げた。今年からゴルフ担当になった自分にとっては、トッププロの渋野しか知らない。だが、まだ21歳。どんなに納得のいかない成績で終えても、必ずリモートの記者会見に応じ、笑顔を見せようと努める。高確率で“良い答え”が返ってくるので、いろいろと聞きたくもなる。ただ、スコアの悪かった時は、質問すればするほど心が痛む感覚になった。渋野が落ち込む内心とは反対に、意識的に明るく振る舞おうとしているのが見て取れたからだ。

気丈に答えた結果、インターネット上などでは「こんなスコアなのにヘラヘラして」といった声も出る。「もしも自分が、あんなことを聞かなければ」と、申し訳ない気持ちになった。これまで身に覚えのない感情だ。頭が良すぎるから、質問した人が求める回答を瞬時に見抜き、リアクションも含め、それに寄せてくることもあるように思う。人が良すぎるから、全ての質問に全力で答えてくる。しかも独特の表現や、強い意思を感じる言葉も多い。注目度も高く、渋野の多くの言葉は世に出る。

質問によっては、真相とは異なる印象を、世間に与えてしまう回答も出るかもしれない。本音ではない取りつくろった明るさを引き出してしまったことで、日本人2人目のメジャー女王が軽んじられる可能性もある。非常にありがたい取材対象だが、同時に難しさも感じる。多くのゴルフファンから将来を期待される21歳。反省の弁ばかりが頭をよぎることもあるだろう。それでも技術も言葉も力のある逸材。たとえ反省の弁であっても、ノビノビと話せる環境、雰囲気づくりへ、自分はもちろん、取材する側も努力を続けなくてはいけないと感じる。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)