石川遼(22=CASIO)が、長嶋茂雄招待セガサミー杯で優勝した。1年8カ月ぶりの勝利だが、その大半がレベルの高い米ツアー転戦期間だった。国内ツアーを主戦場としている時より、はるかにレベルアップしているだけに「復活V」という捉えられ方は、ちょっと違和感がある。いずれにしても、翌朝の空港の売店に、1面で国内ツアーの優勝者を扱うスポーツ紙がズラッと並んだのは、久々の壮観だった。

 さて、あまり報じられていないが、石川にはこの機会にどうしても訴えたいことがあった。優勝決定直後のインタビュー。この日、大会史上最多の観衆7991人が入場したことを受けて、語り出した。

 石川 今日再確認しました。やはりプロゴルファーは、ファンのみなさんあってのものです。僕はみなさん1人1人からアンケートをいただいて、参考にさせていただきたいくらいに思っています。そしてもっとみなさんが見やすいトーナメント、家族で楽しめるようなトーナメントができればと思うんです。

 何度もうなずかされた。以前にも当コラムで触れたが、こういう「顧客重視」の観点が、日本のゴルフ界には足りないように思う。今季も国内ツアーのある大きな試合で、観客がほとんど見られないホールが続く会場があった。そのこと自体もさることながら、大会幹部から「これは選手のための大会。観客にあわせて会場を選んで、選手のプレーの質が落ちては本末転倒」という声が聞かれたのが、非常に残念だった。

 そんな聞く側の思いを知ってか知らずか、石川は「長くなっちゃってごめんなさい」と苦笑しながら、優勝インタビューでさらに続けた。

 石川 いくら普段の練習場でいいショットをしても、ファンのみなさんに見てもらうことはできません。プロにとってのいいプレーは、ファンに見てもらってこそのもの。今日もみなさんのたくさんの声援があったからこそ、試合が盛り上がりました。プロは声援に応えたいという緊張感の中でこそ、いいショットを打てないといけないと思います。

 国内ツアーの選手からはよく「観客が多すぎると気が散っていいプレーができない」という声も聞く。好プレーをたたえる観客の声にも、極めて形式的に手を挙げて応える姿がほとんどだ。こういう意識では高い入場料を払い、決して便利がいいとは言えない郊外のツアー会場に足を運んでくれたファンを、満足させることはできないと思う。

 石川は普段から「コンテンツ力」という言葉を口にする。選手が魅力的で、サービス意識も高ければ、ファンは増える。ファンが増えれば、会場への入場者も増えるし、テレビや新聞などのメディアも取り上げる。そうして露出が増えることで初めて、広告主にとってのメリットが生まれる。

 スポンサー減少、試合数減少の危機が続く男子ゴルフ界は、懸命に営業活動を行っているという。しかしそれと同時に、基本中の基本であるコンテンツ力アップをはかることも、大事なのではないだろうか。

 石川はセガサミー杯で、毎日多くのファンから熱い声援を送られた。取材エリアとはまったく別な場で、ポツリと漏らした。

 石川 今回たくさん応援していただいて、再確認しました。僕は日本のファンのみなさんの声援に、いつも勇気づけてもらってきました。あの声援の後押しがなければ、間違いなく米ツアーに進出することもできなかった。その恩は必ずお返ししていかないと。

 メディア向けのリップサービスではない。米ツアーを主戦場にし、将来の海外メジャー制覇を目指す石川だが、日本のファンのことをいつも思い続ける。国内ツアーのことをいつも思い続ける。だからこそ決して本調子ではなかったセガサミー杯でも、ファンの声援に応えてプレーオフの死闘を制し、優勝してみせた。

 そして優勝後のインタビューでも、国内ツアーを何とかしたい一心で、懸命に語り続けた。そんな石川の思いを少しでも伝えたく、今回は筆をとった。【塩畑大輔】