藤田寛之(45=葛城GC)の2014年シーズンが終了した。3勝を挙げて、賞金王を最終戦の日本シリーズまで小田孔明と争い、賞金ランク2位(約1億1620万円)と大健闘した1年だった。日本シリーズの戦いも東京よみうりCCまで見届けに行ったが、左肩痛の影響と寒さ、疲れ、コースとくに張り替えたグリーンの難しさなどいろんな事が重なり、藤田らしいゴルフを見せられずにツアー最終戦を終えた。力尽きたようでも、なお懸命にプレーする藤田を誰も責めることはなかった。

 こんな藤田を見ていると「ゴルフの神様」はいると思う。少なくとも、藤田の頭の上からは見てくれていると思うのである。

 こんな事を思い出した。私は、かつてゴルフ担当と同時に冬はラグビー担当をしていた。30年ほど前だ。同大ラグビー部が、その当時前人未到の大学選手権3連覇を達成した。それを導いた故岡仁詩部長がよく言っていた言葉がある。「不規則バウンドする楕円球は、よく練習した方にはずんでくれるや」-。

 藤田は火曜日の練習ラウンド後、水曜日のプロアマ戦後、木曜日から土曜日までの試合後、誰もが夜寝る前に歯を磨くように、必ず打球、アプローチ、パットの練習をする。どんなに疲れていても、左肩が痛くても、暑い日も寒い日もである。習慣なのか、やらなければ気持ちが悪いのか、プレー後、そのまま何もせずコースを後にしたことがない。

 8月末に故郷の福岡で今季2勝目を挙げた大会があった。体を悪くしてテレビ観戦の父に「見せたかった」と号泣した。第2日だったか、あるパー3で右にプッシュアウトした。しかし、その打球はグリーン右奧の大木に当たり、グリーン周りのラフに落ちた。ボギーかダボまであるところを、うまくパーで切り抜けた。人はこれをラッキーというが、そのラッキーを生かすアプローチショットのうまさがあってこそだと思ったものだ。

 カシオワールド・オープンのプロアマ戦後の練習場でのことだった。トラックマンという飛距離やスピン量を測る機器を村田浩介マネジャーのスマホにつなぎ、コツコツと打っていた。ブツブツ言いながら、サンドウエッジやアプローチウエッジなどを手にして打っているのを私が見ていると突然、藤田が「町野さん、何がいいですか」と聞くので「ピッチッグウエッジ(PW)で100ヤード」と言ってみた。すると「オーダー、入りました」と、PWを持っていい音をさせて、スリークオーターの力で藤田は打った。スマホの数字には「100・3ヤード」と出ていた。「すごいなあ!」と私がびっくりすると、藤田は少しだけドヤ顔をした。

 45歳の今季、3勝を挙げた。「みんな不思議な勝ちでしたね」と振り返る。プロ野球の名監督・野村克也氏がよく言う「勝ちに不思議の勝ちあり」の言葉がある。確かに、さして好調でもないのに勝った試合もあった。これは「ゴルフの神様」に導かれた優勝というのであろうか。でも藤田は、神様に好かれる努力をしていたからこそだと、この1年の藤田を見続けて私は強く思うのである。通算18勝まずは区切りの20勝目指して、来季も頑張ってほしい。【町野直人】