松山英樹(22=LEXUS)が、フェニックス・オープンで1打差2位となった。3週前の現代自動車チャンピオンズ大会で、1打差3位となったのに続く惜敗。本人も、関係者も悔しいだろう。一方で、勝てなかったとはいえ、現在の松山の戦いぶりは頼もしく映る。

 松山は、1月4日に日本を出発する際、今年の日本ツアーにはメンバー登録しないことを明かした。海外ツアーを主戦場とする選手に、5試合の出場義務試合数が課せられることがネックになった。メジャーに勝つため、米ツアーに集中したくて、「今の自分に(日本ツアー)5試合を達成する余裕がない」と説明した。米ツアーで勝つことへの覚悟がうかがわれ、実際にそれがプレーに表れている。

 1月9日、石川遼(23=CASIO)が渡米する際、この義務試合数のルールについて「単純に疑問を抱く」と話した。石川が懸念するのは、松山や石川本人のことよりも、海外ツアーを目指す若手にとってこれが足かせになることだった。そうなれば、日本男子ゴルフ界のレベルアップや、選手層の向上を阻むことになると主張。本来はスポンサーをつなぎとめるため、日本ツアーのために昨年新設したルールだったのが「1周回って、自分(日本ツアー)の首を絞めることになるのでは」と、石川は語気を強めた。選手を縛って活性化が遅れれば、さらにスポンサー獲得は難しくなるからだ。

 昨年、石川は日本で10試合に出たが、「僕は自分が出たい試合に出ただけ。結果的にそれが5試合以上になった」と、義務試合数を“こなした”という意識はないようだった。

 このコラムでも塩畑記者が、この義務試合数の件は何度も書いてきた。ここでそのルールの是非を問うつもりはない。選手会長の池田勇太(29=日清食品)は、松山の決断があったからといって、すぐに撤廃するわけにはいかないとした。朝令暮改のような対応は「もし、僕が松山の立場だったら、JGTO(日本ゴルフツアー機構)に不信感を持つ」との池田の意見も一理ある。

 そんな中、1月21日にゴルフ関連団体が集まるイベントで、日本テニス協会名誉会長の盛田正明氏(87)による「ジュニアの才能を開花させるチャレンジ 錦織選手の場合」と題した講演があった。同氏は盛田正明テニス・ファンド会長として、ジュニア時代の錦織圭らを米フロリダ州のIMGアカデミーに送り込んだ。それも自身の中でのチャレンジだったそうで、経緯など非常に興味深い話がいくつも披露された。

 その中の1つ。同アカデミーには世界中からジュニア選手が集まり、日本人も複数いるが、3、4人が同部屋の寮生活で、盛田氏はあえて「日本人同士は同部屋にしないでほしい」と頼んだという。言葉も文化も習慣も違う異国の選手との共同生活を、10代の選手に強いた。物がなくなるというトラブルもあったそうだし、治安のいい日本と違って遠征に伴う移動も神経を使うはずだ。知識ではなく実体験で「危険の中で自分の身を守る」(盛田氏)ことを学んでほしかったという。

 盛田氏は「海外で活躍する選手に育てるには、海外の生活に慣れさせる必要がある」と強調した。同時に世界トップの選手と接点を持つことで、「世界一を目指す」という意識にあらためてスイッチが入り、やる気のギアが上がるとした。

 今やどんなスポーツでも、ジュニア世代の夢は国際舞台だ。ゴルフ人口は95年をピークに減り続けているが、子供ゴルファーの夢はどんどん膨らんでいる。松山の活躍を見て、「いつかは僕も…」と練習に気合が入った子もいるだろう。目の前のことも大事だが、その子たちの夢をかなえる道筋をつくるのも、大切な大人の仕事である気がする。【岡田美奈】