真夏のゴルフに必須といわれる「タケ小山のゴルフ即効薬~今週の処方箋」。毎週火曜日、タケ小山(53)がお送りしている“読むお薬”はちょっとブレーク。10日からはシーズン最後のメジャー、PGAチャンピオンシップ(全米プロ選手権)も開幕するPGAツアーについて少しお話ししましょう。世界最強といわれるツアーについて知ることで、ゴルフとさらに深くお付き合いできるようになる。本当ですよ!


米ツアーについて語るタケ小山氏
米ツアーについて語るタケ小山氏

下部ツアーが充実してるから層が厚い


 松山英樹選手、石川遼選手が戦い続けるPGAツアー。現在、さまざまな選手が入れ代わり立ち代わり活躍しているのは、層が厚いからに他なりません。タイガー・ウッズ一強時代が終わっても、20代、30代の実力ある選手たちが次から次へとコンスタントに出てきている。この層の厚さは、明らかにツアーの努力によるものです。

 ちょうど、私が米国フロリダ州にいた頃なのでよく覚えているのですが、今から27年前の1990年、ベン・ホーガンツアーとして下部ツアーができました。若手を中心にしたPGAツアーを目指す選手たちを集めて試合をすることでPGAツアーの層を厚くする。当時のコミッショナー、ディーン・ビーマンを中心にしたツアーの長期的ビジョンの素晴らしさがここにあります。PGAツアーに比べれば賞金は安いものの、最初の年からいきなり30試合もあったことからも組織の力がよく分かります。

 ベン・ホーガン、ナイキ、バイ・ドット・コム、ネーションワイド、そして現在のウェブ・ドット・コムと、スポンサーの変遷こそありましたが、下部ツアーはしっかりとPGAツアーを支え、発展させる役割を担って根付いてきました。おかげで、当初はやりたくてもできなかったPGAツアーとの入れ替え戦も2013年から行えるようになりました。

 これに伴い、いきなりトップレベルのPGAツアーのQT(予選会)を目指すことは基本的にできなくなりましたが、全世界から集まった本当に優れた選手だけがPGAツアーで戦うようになったのです。層の厚さのヒミツはここにあります。


スポンサー推薦少なく本当の実力社会


 現在の日本ツアーと決定的に違うのは、本当の実力社会だということです。日本は、実力社会とは言いながら、出場選手全体の中でシード選手やQTから出場している選手以外に、スポンサー推薦で出場する選手があまりにも多い。PGAツアーにもスポンサー推薦枠がないわけではありませんが、ごくわずかです。当然、アマチュアが出場できる機会も限られます。日本のようにスポンサー推薦枠で次から次へとアマチュアが出場するようなことはありません。あくまでもプロのツアーなのです。

 スポーツビジネスの先進国である米国らしく、きちんとしたロードマップを描いて、ツアーの価値を高めてきたのがPGAツアーです。見る側、つまりファンをもしっかりと取り込む価値を作り上げ、興行的にもしっかりと成功している。だからこそスポンサーもつき、高額な賞金で試合ができるのです。層が厚く厳しい実力社会。それがPGAツアーです。


今週の処方箋

実力者だけが生き残れるのがPGAツアー


 
 

 ◆主な下部ツアーからのたたき上げ 近年では03年に下部ツアーで2勝して賞金王となり、メジャー2勝を含む通算12勝を挙げているZ・ジョンソン(米国)が代表例。今季3勝を挙げ、一時は世界ランク7位まで躍進したJ・トーマス(米国)も14年に下部ツアーで優勝して賞金ランク5位に入り、レギュラーツアーへの扉を開いている。今季「第5のメジャー」プレーヤーズ選手権を大会史上最年少21歳で制した金シウ(韓国)も15年下部ツアーでの優勝が活躍の原点となった。

 グリジョ(アルゼンチン)は15年下部ツアー最終戦と翌シーズンのレギュラーツアー開幕戦で連勝した。15年下部賞金ランク6位の資格で参戦したカウフマン(米国)もツアーカード獲得から2試合で優勝を飾っている。昨季下部ツアー賞金王のブライアン(米国)は、今年4月のRBCヘリテージで早くも初優勝。アマチュア時代から大型新人として騒がれたデシャンボー(米国)も昨季下部ツアー入れ替え戦で勝ち、7月のジョンディア・クラシックを制している。


 ◆タケ小山(こやま)本名・小山武明。1964年(昭39)7月7日、東京都生まれ。中大卒業後、プロゴルファーを目指して89年に渡米し、フロリダ州のゴルフ場所属プロとなる。米、カナダ、オーストラリア、アジアなどのツアーでプレー。07年に帰国し、日本ツアーに参戦。08年に早大大学院でスポーツマネジメントを学ぶ。ザ・ゴルフチャンネル、ゴルフネットワークなどでのトーナメント解説には定評がある。TBS系「サンデーモーニング」の「屋根裏のプロゴルファー」として知られる。InterFMの「Green Jacket」(土曜午前5~8時)、文化放送の「The News Masters TOKYO」(月~金曜午前7~9時)などに出演。


◆協力 ザ・インペリアルCC(茨城県稲敷市)

◆取材・構成 遠藤淳子(清流舎)

◆撮影 松本俊