母国韓国も含め、レギュラーツアー初優勝を飾った趙炳旻(チョ・ビョンミン、26=韓国)は「スタート前は優勝なんて考えもしなかった。だからまだ実感がわかないし、信じられない気持ちです」と笑顔を浮かべた。

 最終日は70にまとめスタート前の首位との5打差を逆転した。多くのプロが激しい高低差、狭さ、グリーンの硬さに耐えかね、スコアを崩したおかげだが、趙にはさして問題なかったのかもしれない。

 2012年1月から2013年10月まで、韓国軍の特殊部隊で過ごした。兵役のある韓国ならではだが、特殊部隊は海兵隊などより上に位置するエリート部隊。体力審査で10人に1人しかクリアできない狭き門で、なんとそこに志願入隊したという。

 「ゴルフで全然結果が出ず、嫌になって辞めようと思った」。幼少時はイ・ボミ、キム・ハヌルらとラウンド経験を持つ有望株で、アマチュアではナショナルチームも経験した。ところが、09年のプロ転向後は芽が出ず、人生を変えるつもりで特殊部隊に入った。

 主に空挺(くうてい)部隊として、高度1000メートル以上の空から20回以上のパラシュート降下を経験。訓練も過酷を極めた。10人1組で1人がミスすれば、全体責任として罰を受ける。最もきつかったのは、角度を90度に保った足上げ腹筋50分だとか。「それも誰かがミスしたら、何度も繰り返します。一日中、そればかりこなしたこともあります」。そんな経験を積むうちに「こんなに過酷なら、ゴルフの方が楽でいい」と思うようになった。嫌だったクラブを握りたくもなり、除隊を決めたという。

 「ゴルフしか知らなかった自分が全く知らない世界を経験することで、物事をポジティブに考えられるようになりました」。何事にもあまり緊張したり、慌てたりしなくなった。「ゴルフで全然緊張しないといえばウソになりますが、心臓がドキドキすることはほとんどなくなりました」。肝の座った韓流のニューフェースが、日本勢には新たな脅威になりそうだ。