6日に開幕する男子ゴルフのメジャー初戦、マスターズ(米ジョージア州オーガスタ・ナショナル)で日本男子初のメジャー制覇に挑戦する松山英樹(25=LEXUS)。プロゴルファー田中秀道(46=信和ゴルフ・ゴールデンバレーGC)が強さの秘密に迫る連載第1回は「飛距離」にスポットを当てる。明らかな伸びを見せるドライバー飛距離の裏には、たゆまぬトレーニングによって手に入れた“ブレーキ”の存在があった。

 連覇を飾った2月フェニックス・オープンの最終日。正規18番で松山が放ったドライバーショットの飛距離は、357ヤードを記録した。試合後、進藤大典キャディーがつぶやいた。「飛びすぎて、逆に(落としどころが)狭くなる」。想定以上のエリアまで届くことでフェアウエーをキープするのが大変になるほどだった。驚きは続く。「スタッツを確認したら、最終日の18番は、75選手の中で英樹が一番飛んでいたんです」。

 昨季294・5ヤードでツアー65位だった第1打平均飛距離が、今季は302・9ヤードで21位につける。田中が解説する。「まず特徴的なのは、ヘッドスピードが速いことです」。米ツアーが計測、公表している松山のヘッドスピードは秒速52・96メートル。こちらも昨季の秒速50・43メートルから大幅に上がっている。「速く振る“だけ”なら多くの選手ができます。松山選手はアクセルを強く踏める速さに加えて、ブレーキ力がすごい」。2つの要素がかみ合うことで、爆発的な飛距離を生む。

 並外れたブレーキ力を顕著に示す一瞬がある。「打つ瞬間、反対方向へ打つのではと錯覚するくらい顔が残っています」。以前は違った。ドライバーを打つ時だけ飛ばしたい、ボールをつかまえたいという気持ちが先行しすぎて体が前へ流れるように映ったという。「体幹、下半身を鍛えたことで、あのスピードを受け止められるだけのブレーキが備わったのでしょう。下半身が止まりながら、その場で捻転、ターンすることでスイングプレーンが安定し、力を効果的に伝えることができるようになりました」と変化を指摘する。

 田中は、松山とタッグを組む飯田光輝トレーナーから「彼は、なかなか休まないんです」という話を聞いたことがあった。「体つきからして、エンジンが大きいことは間違いない。さらにスイングを見ただけで、ブレーキのメンテナンスまで、トレーニングが行き届いていることが分かります。国産小型車ではない。もはや、外国車ですよね」。不断の努力で、日本人離れした武器を手に入れた。

 ◆田中秀道(たなか・ひでみち)1971年(昭46)3月29日、広島県生まれ。広島・瀬戸内高卒。91年プロテスト合格。95年フィリップモリスでツアー初優勝。02年から米ツアー参戦。ツアー通算10勝。166センチ、62キロ。