上田桃子(30)の目に、涙がにじんだ。

 2位西山に2打差をつけて迎えた最終18番パー5。誰が、こんな結末を予想しただろうか。ちょうど1年前に、生まれ育った熊本を襲った震災。故郷に優勝を届けたい-。ほぼ手中にしていたはずの上田の願いは、最後の最後でその手から離れていった。

 初日から首位を守り続けていたが18番で先に西山がバーディーを奪い、重圧がかかった。決めれば優勝という1メートルもないパーパットを外し、プレーオフ(PO)へ。そしてPO1ホール目。勝ちたいという思いが強すぎたのか、第2打を池に落として優勝は消えた。

 報道陣に囲まれても言葉が出ない。沈黙が続く。涙を見せまいと、必死にこらえる姿があった。

 「この1年間を考えたら、熊本の人の方がキツかったと思う。熊本の人は温かかったし、熱かった。その声援に、本当に応えたかった…。終わってしまったことを言っても、現実は変わらない。必ず、これをエネルギーにしないといけない。何があっても悔いなく終わりたいと思っていましたけれど、最後にまた、自分の未熟さが出てしまった…。熊本の人の心に届くゴルフがしたかったけれど、まだ、自分の実力が足りなかった」。

 途切れ途切れに言葉をつなぐ。目は真っ赤。クラブハウス内であった記者の取材が終わり、外に出てテレビカメラの前に立とうとした時だった。優勝した西山のスピーチが、まだ熱気の残るグリーン上で行われていた。その雰囲気を察したのか、上田はあふれ出る涙を我慢できなくなった。1分近くも空を見上げた。そして取材が終わり、家族の姿を見つけると、涙が止まらなくなった。

 「本当に優勝したかった。悔しいですし、熊本の人にすごく申し訳ないです。でも、何があっても、前を向いて頑張りたい。やっぱり、練習するしか道はない。必ず自分にもできると信じている。いつか、ご褒美が来ると信じている。苦しい現実が待っていましたけれど、その先には必ず、明るい未来があると信じています」。

 熊本の復興と、3年ぶり優勝を目指した自身の復活-。背負いきれないほどの重圧をかかえて臨んだ3日間は、悲劇的な結末になってしまった。