今年のスポーツ界を振り返る連載「取材ノートから」の第4回は、ゴルフの松山英樹(25=LEXUS)が日本男子初のメジャー制覇に近づいた8月の全米プロ選手権を取り上げる。首位で最終日を折り返し、同組ジャスティン・トーマス(24=米国)に目の前で優勝をさらわれて悔し涙を流した一戦。松山専属の進藤大典キャディー(37)の証言から激闘の裏側に迫る。

 「今振り返っても、やり直したいっていう気持ちはありますよ」。進藤氏は「全て結果論」と強調した上で素直に切り出した。メジャーのサンデーバックナインで松山は確かに首位に立っていた。前週ブリヂストン招待を勝って世界が認める優勝候補。8、9番としぶとくパーを拾い、10番のバーディーで抜け出した。

 「やっぱり、11番ですかね」。右奥のピン手前は下っていて、弱ければ戻ってきてしまう。チャンスにつけたいフェアウエーからの第2打をグリーン右に外した。「風が少し舞っていたんです。アゲンストなのか、微妙な感じ。アゲンストの読みで、ちょっと大きめの番手で合わせて打ったら、右に抜けてしまった」。1・3メートルのパーパットが外れ、トーマスに並ばれた。

 「16番ですね、最後のチャンスは」。運もあったトーマスが乗りに乗れた中、連続バーディーで1打差としていた。第2打はともに右ラフから。「7(番アイアン)か8かで迷って、7で打ちました。奥に少しこぼれる分はOK。優勝争いでアドレナリンも出ていたのかもしれません。思ったよりフライヤーして、思ったより奥にオーバーした。ホントに数ヤードの差。結果論ですが、ジャッジミス。何か足りない部分が僕にもあったと思います」。トーマスの攻めが「すごくクレバー」と印象に残っている。絶対にオーバーさせない、引っかけて左の池にも入れないという強い意思を込めた低い球で手前のバンカーまで運び、パーを拾った。

 「メジャーで初めて最後の最後まで優勝を争った。この経験は何物にも代え難いと思います」。右肩上がりで成績を積み上げてきた松山だから、全米プロが千載一遇のチャンスではないことを予感させる。「タイガー(ウッズ)だったら、1度勝てなくても『次、勝つかもね』となりますよね。今まで日本人が勝てなくて、1度(優勝争いで)勝てなかった。『大きなチャンスを逃した』『この先5年は勝てない』なんて言う人もいるかもしれません。英樹はそうじゃない。壁をぶち破ってきた選手ですから」。身を置いた人間にしか分からない極限の緊張状態。メジャーで上位に食い込む“分母”は着実に増えており、この経験が生きる機会は必ず巡ってくる。

 「あの時のゴルフは、世界中の誰がかかってきても負けない。全盛期のタイガーだって、勝てないと思います」。いつしか「松山キラー」とささやかれつつあったトーマスをねじ伏せた10月のプレジデンツ・カップ最終日に確信した。涙を糧に、松山は途方もなく強くなる。【亀山泰宏】

 ◆17年全米プロVTR 松山は第2日にメジャー自己ベスト「64」で首位に立つと、第3日も粘って1打差2位で最終日を迎えた。前半は6、7番と連続バーディーを奪い、8番を終えて単独首位に浮上。10番の6メートルを沈めるバーディーで再び抜け出したが、その10番では、第1打が左の木に当たってフェアウエーに戻ってきたトーマスのバーディーパットがカップの縁で10秒以上止まってから沈むミラクル。松山は続く11番からの3連続ボギーで後退した。再び1打差とした後の16番で松山がボギーをたたくと、続く17番パー3でトーマスがスーパーショットを放ち、勝負を決めるバーディー。メジャー初Vを飾り、松山は3打差5位だった。