苦労を重ねたプロ8年目の香妻琴乃(26=サマンサタバサ)が、ツアー初優勝を飾った。首位と3打差10位から出て8バーディー、ボギーなしの64で回り通算15アンダーの201。最終18番で2メートル半のバーディーパットを沈め、1打差2位に4人が迫る優勝争いを制した。腰痛とパターのスランプに悩み、16年限りで賞金シード権を喪失。優勝会見では「ゴルフが嫌いだった」と大粒の涙を流した。

遠く離れた18番から歓声が響く。50分ほど前にホールアウトしていた香妻は、パター練習場でプレーオフを覚悟していた。1打差で迫る最終組アン・ソンジュがバーディーパットを外したことを伝え聞く。優勝決定を知ると、松村キャディーと抱き合った。「ゴルフを続けていて良かったね」。苦労が走馬灯のように巡り、涙がこぼれた。

「ゴルフが嫌いだった時がありました。2年くらいQTも悪くて、試合に出られない。どう過ごせばいいんだろうと思っていた」

賞金ランク19位で、初のシード権を得た14年秋に腰痛を発症。アイドル系プロとして脚光を浴びつつも、人知れぬ苦悩があった。15年頃からはパターのスランプに陥り、翌16年限りでシード喪失。昨年は第3QTで落選し事実上、レギュラーツアーの出場資格を失った。今大会は申ジエ(韓国)の欠場で、開幕3日前に巡ってきた出場権だった。

精神的に苦しい時、父尚樹さん(54)と飲み明かした。2人でハイボールを20杯飲んだ夜がある。愛娘へ、父はこう言い聞かせた。「ゴルフが悪くても、命まで取られりゃせんやろ」。

復活の兆しをつかんだのは、1人のファンから届いた映像だった。不調になる前のパター。それを参考に練習すると、感覚がよみがえった。「見つかった! 昔のパターが見つかったよ!」。子供のように喜びながら、父に連絡を入れた。この日は1番で5メートル、3番で4メートルのバーディーパットを沈めた。上位4人が通算14アンダーで並んだ最終18番では、頭ひとつ抜け出す2メートル半を入れた。救ってくれたのはパターだった。

「23年ゴルフをして、たくさんお金を使わせた。少しは親孝行できたかな。次はメジャーを勝ちたい」

大好きな父が、涙でかすんで見えた。【益子浩一】

◆香妻琴乃(こうづま・ことの)1992年(平4)4月17日、鹿児島県鹿屋市生まれ。3歳から横峯さくらの父良郎さんが指導する「めだかクラブ」で腕を磨いた。宮崎・日章学園卒業後の11年夏にプロテスト合格。下部ツアーでは通算2勝。今季はQT104位、リランキング55位。男子プロの陣一朗は実弟。157センチ、51キロ。血液型A。