<女子ゴルフ:マスターズGCレディース>◇最終日◇23日◇兵庫・マスターズGC(6458ヤード、パー72)◇賞金総額1億2300万円(優勝2214万円)

 06年賞金女王の大山志保(34=フリー)が、奇跡の復活優勝を飾った。通算7アンダーで並んだ10年全米女子オープン覇者ポーラ・クリーマー(25)とのプレーオフ3ホール目。あわやOBの第1打が男性ギャラリーの右手に当たり、フェアウエーへ。“神の手”に助けられ、バーディー奪取で激闘を制した。08年に両肘痛を発症。激痛、手術、絶望、恩人の訃報を乗り越え、08年の今大会以来3年ぶりのツアー通算12勝目を手にした。

 飾りっ気のカケラもない。大山が笑った。右手でガッツポーズを、不器用に何度も作った。「たくさん泣いてきて…。支えてくださった方々に感謝したい。今まで生きてきた人生の中で、本当に一番幸せです」。

 元全米女子オープン覇者クリーマーとのプレーオフ3ホール目。3年前、最後の優勝を飾ったマスターズGCで3メートルのウイニングパットをねじ込み、勝負を決めた。最高の相手、思い出の場所で、06年賞金女王の復活は成った。

 笑顔の前に、3年分の涙があった。夢の米ツアー参戦1年目の09年8月、カナダからの帰国便。壊れた左肘。左手は腫れて伸び切ったままだった。都内で医師に「こんな肘、見たことない。曲がらないと手術もできない」と言われた。当時32歳。「もうゴルフに戻ってこれないんじゃないの?」と言う人もいた。

 「周りがそんなふうに見ているなんて。ケガ以上につらかった。あたしって、何の価値があるのかなと…」。12月17日に手術を受けたが、絶望の日々が続いた。

 翌春、日本を離れ、オーストラリアへ。ホームステイ先のラリー・ファーガソン夫妻に救われた。「シホが元気なら私たちはハッピー。ゴルフができなくても大好きよ」。5カ月間、その優しさがあって、つらいリハビリに耐えられた。ところが…。今年2月、訃報を受けた。ラリー氏が61歳で急逝。心臓発作だった。

 流した涙が、2つの奇跡を呼んだ。この日、レギュラーラウンドの最終18番パー4。「絶対に入れるんだ!」。グリーン下段から上段に切られたピンまで、15メートルの超ロングパットを決めて、クリーマーに並んだ。

 18番を使ったプレーオフ3ホール目の第1打には“神の手”が宿った。右OBゾーンに向かった打球が、カート道にいた男性ギャラリーの右手を直撃。フェアウエーにはね返った。「人に当たったなんて知らず『ラッキー』と思って」。バーディー決着につなげた。

 若年齢化するツアーで、34歳の元賞金女王は言う。「ケガのおかげで、笑って前を向いて進めるようになった。40歳、50歳までゴルフがしたい。若い人には負けません」。復活優勝で、故郷宮崎開催の最終戦LPGAツアー選手権(11月24~27日)出場権を得た。その試合には、ラリー氏の妻シャーリーさんが応援にやってくる。【加藤裕一】

 ◆大山の故障

 08年初めから両肘を痛める。10月マスターズGCレディースで通算11勝目を挙げ、12月米ツアー最終予選に通過したが、同ツアー参戦初年度の09年は患部悪化。日本ツアーで公傷制度適用を受け、同年12月17日に左肘関節内靱帯(じんたい)損傷の手術を受けた。