<男子ゴルフ:マイナビABC選手権(日刊スポーツ後援)>◇最終日◇30日◇兵庫・ABCGC(7217ヤード、パー72)◇賞金総額1億5000万円(優勝3000万円)

 シード初年度の河野晃一郎(30=エコー電子)が「大金星」を挙げた。最終18番で劇的イーグルを奪って67をマークし、通算15アンダーで■相文(25)とのプレーオフに持ち込むと、賞金ランク1位を独走する強敵を6ホール目で撃破。笑顔のツアー初優勝を飾った。東洋大時代は無名も卒業後に単身渡米し、技を磨いてプロ転向9年目で栄冠を手にした。

 やっと、心の底から笑えた。18番パー5でのプレーオフ6ホール目。河野は3メートルのバーディーパットを沈めると、両手を突き上げた。今大会前まで賞金ランク55位だった男が、同1位を独走する■を撃破。ツアー初優勝を決めた。

 「相手にとって不足はなかったけど、まさか勝てるとは思わなかった。信じられないです」。

 先に終えた■と2打差で迎えた最終ラウンドの18番。決めなければ負ける2メートルのイーグルパットを沈めた。執念でプレーオフに持ち込んだが、その2ホール目でミスを犯す。グリーン右ラフからの第3打でクラブが球の下をくぐり“だるま落とし”のようになった。

 河野はそこでも笑っていた。「(アプローチ専用クラブの)チッパーを使わないといけないなあ」。同時に、貪欲にもなった。「これで負けたら一生立ち直れない。意地でも勝たないと」。気持ちを切り替え、第4打を寄せて拾ったパーも勝利につなげた。

 東洋大を卒業後、米国に渡りミニツアーを転戦した。洋芝で小技を磨き4勝したものの最高賞金は2000ドル(約16万円)。山梨で社員35人の電子機器会社「エコー電子」を経営する父晃さん(69)から毎月送られる20万円が頼りだった。英語も話せず苦労した当時に、笑う大切さを実感。「笑って周りに好かれる環境を作るのが大事だった。今年はイライラしていたけど、先週から球が曲がっても笑ってやろうと思っていた」。笑い続けて福が来た。

 米国のミニツアーでは、各選手が約2万円のエントリーフィーを出し合い、そのお金を賞金として奪い合った。中古車で計25万キロを走り回った。「ハングリーさが身についた」と胸を張る。この日、日本ゴルフツアー機構の小泉直会長が河野(かわの)を“こうの”と間違えて呼ぶなど、まだ知名度は低いが、名前を売るのはこれから。「これで日本シリーズにも出られる」。大舞台の切符も急きょ手にした河野は、また目を細めた。【木村有三】※■は裏の里が非<河野晃一郎アラカルト>

 ★生まれ

 1981年(昭56)3月17日、東京都。

 ★ゴルフ歴

 14歳から。東海大甲府高から東洋大に進学も、アマ時代の主な戦績は02年日本学生9位。同学年で活躍していた宮里優作らとの差を痛感し「追いつくには日本で生半可なことをやってたらダメ」と大学卒業後に単身渡米。

 ★プロ転向

 03年。日本のプロテストは07年に3位で合格。09年日本プロでツアーデビュー。昨年賞金ランク67位で初シード獲得。

 ★バンカー名人

 昨季サンドセーブ率は60・34%で1位。逆に昨季平均飛距離は265・13ヤードで101位。飛ばしより小技が得意。

 ★家族

 父晃さん(69)と母美代子さん(64)。

 ★サイズ

 175センチ、62キロ。

 ◆最長プレーオフ

 76年ペプシウイルソンの14ホールが過去最長。同大会ではピーター・トムソンが、G・マーシュ、B・ジョーンズ、宮本省三との4人の争いを制した。6ホール目にもつれこんだのは93年JCB仙台以来18年ぶり。