現役にこだわり続けた投手と、若く惜しまれながら潔くケジメをつけたゴルファー。実働29年のプロ野球記録を持つ前西武投手の工藤公康氏(48)と、08年女子プロゴルフ賞金王の古閑美保さん(29)は、ともに今季限りでの現役引退を決断した。プロとしての生き方が好対照な2人が、引退と今後について熱く語り合った。(以下、敬称略)

 工藤

 若くして引退された理由は?

 古閑

 小学校の時にゴルフを始めて、20年くらいでやめると漠然と思ってたんですね。やっても31~32歳くらいと。手首の痛みが原因で引退が早まったのは事実です。手術すれば1年で復帰できると言われたけど、「手術」という言葉がショックで心が折れました。

 工藤

 僕は肘の手術を2回して、23年痛み止めを飲んでやってきました。今年は肩の状態がよくなかった。今年は野球をやってないけど、野球教室で回るなかで、子どもたちに教えるという自分のやるべきことが見えたんです。

 古閑

 私は練習できないことがつらかった。今日の修正点があれば、納得できるまで打ち込むタイプだったので。父も周りの方も、まだやってほしいと言ってくれたけど、母だけは違った。そんなに痛いなら、もうやらなくていいよって。泣きそうになりました。

 工藤

 僕の場合、医者からもう投げられないと言われるか、家族からやめてと言われるかのどっちかだった。嫁には今年の5~6月ごろから言われていて。監督の話があったけど、引退の原因じゃないですね。

 古閑

 横浜の監督の話を聞いちゃっても大丈夫ですか?

 もう決まったものだと思ってました。

 工藤

 監督候補の1人としてお話しさせていただいてました。交渉で大事だと思うところは伝えました。僕が30年野球をやってきて一番思うのは、ケガをどう防ぐか。それだけは何とかしたかった。球団も早く進めなければならない事情があったから、信頼関係を築けなかった。2、3回会っただけじゃ、難しかったですね。王さんとかにも相談しました。今回は社会勉強をさせてもらったと思っています。現役を終えて、いきなり監督になるのはまだ早い。もっと勉強してこいと、野球の神様が言ってくれたんだと思います。

 古閑

 すごく前向きですね。引退して私は今、ただホッとしています。趣味を充実させたい。キックボクシング、ベリーダンス、空手にも興味がある。いいお母さんになるのが、一番の夢かもしれないです。

 工藤

 娘(遥加)がプロになったんですが、アドバイスをいただけませんか?

 古閑

 練習するのは当たり前。いつも頭の中でゴルフのことを考えてました。よく夢にも出てきました。どれだけ私生活でもゴルフのことを考えられるか。頭も体もゴルフのことに費やせる時間が長い人が、上にいる人だと思います。

 工藤

 具体的には?

 古閑

 左手でごはんを食べたり。お酒飲みながらでも、持つコップでリスト強化とか。階段を上るとき、お尻を意識するだけでも筋肉がつく。新幹線に乗って看板を読ませられて、動体視力だと。ウオーキングで電柱まで何歩とか言われて、目測だと。川を逆に歩いたり。父が遊びながら、ゴルフにつながるトレーニングにしてくれた。小さいことを何にもやらないでポケッとしてると、そこまでの人なんですよ。

 工藤

 僕がプロに入団した年に、古閑さんは生まれたんですね。年数的にはプロで一番長くやらせてもらった。野球を好きになったのは、40歳を超えてからなんですよ。朝は勝手に起きられるようになって、つらくて嫌だった練習をやりたくなって。僕も最近、トレーニングを再開しました。本当にひょっとしたらですけど、肩がよくなったら、急にアメリカにいっちゃうかもしれない。

 古閑

 何年かしたら、自分も気付くかもしれないですね。不動さんを抜けとずっと言われてきて、目標が高すぎたから、練習は本当に厳しくて嫌だった。すごい世界で、プレッシャーを受け続けてきたんだなと今になって思う。先輩方には絶対戻ってくるから、っていわれるんです。今までは復帰といわれても「やりたくない」でしたけど、いろんな経験をして、可能性の1つとして考えたいと思うようになりました。

 工藤

 その時の状態によって、考えも変わります。1歩踏み出せる勇気さえあれば、何でもできる。後ろに下がっても面白くない。踏み出した時に違うものが見える。いろんな人と出会って、可能性を広げてほしい。古閑さんには、すごい可能性がありますから。周りに何と言われようと、戻りたかったら戻ればいい。またやろうって言ってくれたら、喜ぶ人がたくさんいるはずです。

 古閑

 工藤さんとお話しできて本当によかった。私も自由に好き勝手にやってきましたし。何て言われようと関係ないですよね。

 工藤

 ええ。48歳の僕でもまだ可能性が残ってると思っているので。

 ◆古閑美保(こが・みほ)1982年(昭57)7月30日、熊本県生まれ。10歳からゴルフを始め、二岡中時代に世界ジュニアで優勝。東海大二高3年から清元登子に師事し、同年高校選手権優勝。01年にプロテスト合格し、ツアー通算12勝をマーク。08年に4勝を挙げて賞金女王に。今年9月27日に今季限りでの引退を電撃発表した。167センチ、60キロ。独身。

 ◆工藤公康(くどう・きみやす)1963年(昭38)5月5日、愛知県生まれ。名古屋電気高(現愛工大名電)から81年ドラフト6位で西武入団。ダイエー、巨人、横浜に所属し、日本一11度、通算224勝を挙げた。今季は浪人し、12月8日に現役引退を表明した。実働29年のプロ野球記録など獲得タイトル多数。176センチ、80キロ。左投げ左打ち。家族は夫人と2男3女。