<米シニアゴルフ:全米プロシニア選手権>◇最終日◇26日◇セントルイス、ベルリーブCC(パー71)

 身長167センチの51歳が、どでかいことをやってのけた。5打差の5位から出た井戸木鴻樹(小野東洋GC)が6バーディー、ノーボギーの65で回り、通算11アンダーの273で優勝した。アジア選手のシニアメジャー優勝は初。米シニアツアーを制した日本人は、青木功以来2人目という快挙となった。室田淳は5位、尾崎直道は19位、高見和宏は53位だった。

 ドッキーの愛称で知られる関西の人気者、井戸木が初体験の米国でどでかい仕事をやり遂げた。身長167センチの半分もある優勝トロフィーを掲げた優勝インタビューで初体験の米国を「アメリカ、ファーストタイム」と口にして感謝の気持ちを表した。

 「日本人の僕でも応援してくれて、心が広いね。言葉わからんし、来ても通用しないと思っていた。でも小さな体でもうまくいけば通用するということを、感じてもらえたら幸せ」と、笑みを浮かべた。

 米シニアツアー優勝は、通算9勝の青木功以来で2人目。メジャーは、世界の青木でも制していない。日本選手のメジャー優勝は、77年の樋口久子の全米女子プロ選手権以来、36年ぶりだ。02年に須貝昇が全英シニアオープンで優勝したが、まだメジャーに昇格していなかった。

 小柄な体が躍動した。2番、3番、7番、8番、14番、17番で6バーディー。飛距離の不利を、パッティングではね返した。4日間のパット数は最少タイの108。この日の3番のバーディーパット、10番のパーパットは10メートル。17番では8メートルの距離を決めて6つ目のバーディー。ファンから大声援を浴びて、握った拳を何度も振った。

 そのパットに一時は、悩み抜いた。長尺パターに頼り、16年間、タレント原田伸郎とともにレギュラー出演する関西ローカルのレッスン番組「原田伸郎のめざせパーゴルフ3」の収録で、原田に「どうやって、パターを打つの?」と逆に尋ねた。そんな悩みも、レギュラーツアーを離れ、肩の力が抜けて解消した。「開眼した。ひっかくような癖がなくなった」と振り返る。

 小柄だけに、飛距離よりショットの精度を追求し続けた。所属する小野東洋GCは2年前に日本プロ選手権日清カップが開催された難易度の高いコース。01年から7度も日本ツアーのフェアウエーキープ率1位に輝いたショットに、さらに磨きをかけた。飛ばない分は男子ツアーでは珍しい、ウッド6本のセッティングで補った。「木のクラブが6本、六本木の男やな」と関西弁で笑わせる。

 緻密なショットの一方で渡米前に「原田伸郎-」の番組収録で「全米プロシニア?

 セントルイス?

 どのコースでやるか知らない」とのんきな一面も見せた。飛距離の不利をはね返し、メジャーを制覇した。小柄な男が大きなタイトルを手に帰国する。

 ◆井戸木鴻樹(いどき・こうき)1961年(昭36)11月2日、大阪府出身。茨木市立豊川中を出て、82年プロ合格。幸喜から改名し90年関西プロ選手権でツアー初優勝。93年NST新潟オープンで2勝目を挙げる。正確なショットを武器に、レギュラーツアーの賞金シードを15度獲得。生涯獲得賞金は4億1623万1831円。昨年11月の富士フイルムシニアでシニアツアー初優勝。167センチ、62キロ。

 ◆全米プロシニア選手権

 1937年創設。50歳以上を対象とする米シニアツアーのメジャー5大会(他に全米シニアオープン、ザ・トラディション、シニアプレーヤーズ選手権、全英シニアオープン)の1つ。歴代優勝者にはサム・スニード、アーノルド・パーマー、ゲーリー・プレーヤー、ジャック・ニクラウス、トム・ワトソンら名選手が並ぶ。日本人の米シニアメジャー制覇は史上初。03年にメジャー昇格した全英シニアには直前の02年に須貝昇が優勝している。