<女子ゴルフ:伊藤園レディース>◇最終日◇16日◇千葉・グレートアイランドC(6639ヤード、パー72)◇賞金総額1億円(優勝1800万円)

 プロ9年目前田陽子(29=フリー)が、ツアー初優勝を果たした。1打差3位から出て3バーディー、1ボギーの70で回り、通算9アンダー207で並んだ大城さつき(25)とプレーオフに突入。2ホール目にパーパットを外した大城を突き放した。昨年からツアー5勝の今堀りつ(65)に師事し、勝負魂をたたき込まれ、初の優勝争いで勝ち切った。賞金女王争いは次週以降に持ち込まれた。

 前田がシンデレラストーリーを完結させた。プレーオフ2ホール目の18番、長いバーディーパットを30センチに寄せ、「最後に打つ方が嫌なものだから」と、お先にパーパット。1・5メートルのパーパットを残した大城に圧力をかけ、ミスを誘った形だ。「本当に優勝したんだ」。こぼれた涙を、スポンサーでもある「nepia」のティッシュで拭った。昨年の同時期は段ボール工場で働きながら、予選会の準備をしていた苦労人が新ヒロインになった。

 試練はあった。この日は確実にフェアウエーをとらえ、グリーンを外してもカラーどまりの手堅いゴルフで、堂々と冷静にプレーしているように映った。だが、内心は「すごく緊張していた」。正規の18番で、入れれば優勝の2メートル強のパーパットは「打てないかもしれない」と不安になった。結局は「引っかけたくなくて、押し出してしまい」外してしまった。

 流れを手放しかけながらも勝てた原動力に、昨年から師事した今堀の存在を挙げた。技術面はもちろん「気合が足りない」などと精神面も叱咤(しった)される。前夜に電話すると「明日5時間戦って勝つのと、365日かけて試合に出るのとどっち?」と言われた。巡ってきた好機をつかむか、逃して予選会を考えて日々を過ごすか、の意味だ。「はい、そうですよね」と答え、見事に期待にも応えた。

 優勝スピーチでは母貴子さん(54)への感謝の言葉も出た。両親が離婚し、今は母子2人暮らし。時にけんかもするが、費用が足りない時は支援してくれた。やっと稼げるようになり、先月には冷蔵庫と洗濯機をプレゼント、この日はさらに大きな恩返しができた。優勝賞金1800万円をバイト時代の時給810円で換算すると、ちょうど苦労した9年弱分だ。「長かったですね」。そういう笑顔は晴れやかだった。【岡田美奈】<前田陽子(まえだ・ようこ)アラカルト>

 ◆生まれ

 1984年(昭59)11月26日、徳島県生まれ。12歳からゴルフを始め、香川西高出身。

 ◆プロ転向

 06年からツアープロ単年登録も06、07年に出た計2試合は予選落ち。08年に5度目の挑戦でプロテスト合格。森田理香子らと同期。08年4試合出場で27位が最高位。

 ◆アルバイト

 09~13年はツアー出場なしで、下部ツアー暮らし。徳島・小松島市内の段ボール工場で時給750~810円で働きながらツアーを目指す。昨年末の予選会で今季の本格参戦の権利を得て退社。工場が王子製紙の関連だったことから「nepia」がスポンサーに。

 ◆今季

 これまでの最高位はmeijiカップ10位。前週まで賞金ランク68位だったのが34位に浮上。

 ◆サイズ

 164センチ、60キロ。