- スポーツメニュー
-
- 後藤新弥のDAYS'メニュー
-
新弥のDAYS'
2006年01月14日更新風よけの原田
<ベテランでなぜ悪い!ジャンプの☆だ>
トリノ五輪のスキー、ジャンプ日本代表に原田雅彦(37)が選出された。
モーグルの里谷多英(29)とともに、世間的には「意外なベテランの再登場」の感は否めない。
え、また? なんで? 裏があるの?
フィギュアスケートの代表選出に関して、あれこれを「うわさ話」が飛び交ったため、一部の五輪ファンはすっかり「裏があるの?」マニアになってしまったが、2人のベテランは別に何かの操作で選出されたわけではない。
もちろん、「誰を推す」に際しては競技団体内部のそれぞれの勢力争いの影響を受けるが、いまどき実力がない選手を選ぶことはできない。
強いて言えば、この2人のベテランを明白な実力差と実績で「超える」若手がいないというのが現状だろう。
それは寂しい話だが、実際にはこれも「説明のための説明」であって、現場の関係者からすれば「五輪本番に強い選手を選ぶとすれば、当然この2人になる」そうだ。
里谷の強さもさることながら(過去、金、銅)原田は世界のひのき舞台での成功と、同時に失敗をもエンジョイする領域にすでに達している。
リレハンメル五輪の団体戦では大失敗をやらかして日本の金メダルを捨てる形になった。けれど長野五輪では、1本目をまたもや失敗しながら、結局はみごとな金メダル。その勝負強さ、茶の間を沸かせるカリスマ性をいかんなく見せつけた。
長野五輪で、競技の後、「はあい、原田は復活しました。これからも何度でも復活します」とテレビカメラに向かって大見得を切っていたのを思い出す。
「これからも何度も復活する」とは、これからも何度も谷底に落ちますという意味でもある。落ちてもおれはその度にはい上がるからね、という宣戦布告でもあった。
ジャンプは水物、一発勝負とよく言われるが、しょせんスポーツの勝ち負けなど、運不運に大きく左右される。日本人に合うルールかどうかだけでなく、その日その一瞬の風の吹き方1つで、金メダルか敗北者か、大きく変わる。
けれど、世間にそれは関係ない。誰が勝つか、誰が期待に応えるかの、結果だけだ。「スポーツをそういう見方で見るのは間違いだ」という正論もあるが、世間というものはそういうものであり、裏を返せば、そうやって<幸運で>手に入れた金メダルが、スポーツを盛り上げてきたのだ。
原田はそういう世間の非情さや、運の残酷さを知り抜いている。体で知っている。それに逆らわない。
リレハンメルの後、北海道の地元では国賊扱いされ、飲みに行った居酒屋で「なんだ、おまえは」と絡まれたことも1度や2度ではなかった。家族がどんな思いをさせられているかも、知っている。
地獄を知った男。
そして「何度でも(転落して)復活します」と笑いながら宣言した男。地獄に落ちることすら、今ではエンジョイできる男。
こういう男は、やっぱり五輪に強い。必要だ。外国チームの監督にとって、こういうのが出てくるのが一番いやだ。あいつがまた出てくるのか! 計算ができなくなる。予想が立てられなくなる。
それだけで、原田の価値はある。
「風よけになる」ことを、いとわない男だ。
はっきり言って、今回の五輪では、ジャンプは好成績を目下は望めない状態だ。
原田は合宿できっと、こう言うだろう。
「大丈夫だよ、敗戦責任はどうぜおれに集まるんだ。おれが1発目に大失敗をやらかせば、君らは何も言われないよ。任せとけ、だから君らは思いきって、勝負に出ろ。慎重になんか行くな」。
若手は笑い、そして思い切って挑戦するだろう。
原田は、そう言いながらも自分は自分で、一発の出やすいノーマルヒルでの「奇蹟のメダル」を狙っているはずだ。もう、五輪本番までの計画ができているはずだ。
そうではなく、もう体力も技術も世界に立ち後れ、本当に「原田などもう古い」のかもしれない。たとえそうであっても、「何かやりそうだ」という興味が、この男には自然に集まる。
ふむ。年寄り扱いをしたやつにどう報いようか。原田はきっと、計算している。
たぶん、里谷も同じに違いない。
- Thanks
- ご愛読に感謝申し上げます。すべてにご返信ができないため、整理の都合上、nikkansports.comの本欄、マスター及び筆者個人アドレスでは、コラム内容に関するご感想などのEメールは、現在すべて受付を中止しております。お詫び申し上げます。下記にご郵送ください。
また、他ページ、フォーラムなどへの転載は、引用を含めて、お断りします。ご協力に感謝いたします。
【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ >> 】