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新弥のDAYS'
2006年01月21日更新一瞬で人を見抜く力
<知名度に頼らない判断力を生かそう>
最近、従来一部でもてはやされ、まるで「新時代のヒーロー」のように描かれていた企業や人物が、一転して黒い疑惑をもたれて窮地に追い込まれている。
よくあることだ。
これまでさんざん「これからの若者はこういう生き方を学ぶべきだ」などと「人気者の肩書き」に価値判断を誤り、へつらってきた人たちは、いったいどうなるのだろう。
有名人だから偉い、急成長企業だからすごい、といった「肩書き」すなわちブランドに自分の考え方や見方の一部またはすべてをもたせかけてしまうことの恐ろしさを、あらためて感じさせられる。
これはスポーツでも同じで、「どこそこのトレーナーは誰それのコーチもしているんだって」といったうわさに引き寄せられて頼り切ってしまったり「この錠剤を飲むと爆発的にパワーが出るそうだ」という話に「怪しいぞ」と思いながらも、つい奇跡を求めてしまうケースは身近にも多い。
そのほとんどが「練習に近道はない」という真実を知りながらも、つい近道を求めてしまう、スポーツ選手の悲しい習性からくるもので、決して非難すべきことではないのだが、逆にそこにつけ込もうとする側にとっては、あまりにも大きくて楽な出入り口ではある。
ただ、社会全体には「知恵」というものがある。
残念ながらわれわれ若者よりも、本来はお年寄りこそに備わるべきものだ。
長い間自分も苦労して生きてくると、一瞬で「この人物は信用に値するか、どうか」が、分かってしまうらしい。今騒がれている企業が接近してきたときに、年寄りの集まりである組織や団体が、あまり理由を明確にせずに排除した例が昨年あった。とっくに裏を知っていたから、というものではないだろう。年寄りの直感というものを、悔しいが、認めなければならない。
一瞬で人を見るのは、技術でも才能でもなく、経験と知恵である。
それは「第一印象」云々とは別の、(相手の)外見の奥にひそむ品格とか品性から(発信されるものを)受け取るテレパシーのようなもので、この受信能力は苦労の積み重ねとともに高まっていくのが普通だ。
しかし、今の大人達にはそうした年輪にふさわしい知恵がどうも十分には備わっていない。今回の騒動も、しかるべき大人達が「一瞬で見抜く」ことができなかったことにも、そもそもの原因がある。見抜くべき立場の人が見抜かなければ、世間はそのまま誤った判断を受け取り、多くの善良な人たちが迷惑を被ることになる。
大人たちの「見抜く力」が不足し始めたのは、世の中があまりにも急激に変化したからだろうか。そうではなくて、苦労が足りないだけかもしれない。見抜く力を持たなければならないのだという、社会や人生に対する責任感が希薄になったのかもしれない。メディアもその一端かもしれない。
逆に、そうした知恵が正常に働いている場合には、「一瞬で見られる」のだから、ある意味では実に怖い。
しつけとかお行儀も「見抜かれる」材料になる。ネクタイはしなくてもいいのだ、といった安直な考え方も、TPOを間違えると取り返しのつかないデメリットになる。
昨年、何人かのスター選手といろいろな場所でお会いした。
こちらも見られているのだ。筆者などはいい加減だから、さぞ「あ、こいつはだめだ」と、一瞬で見抜かれたに違いない。怠け者だ、軟弱男だ、スケベなおやじだと、思われたに違いない。一部当たっている(笑い)。
また逆に、「この選手は確かに何年か前にメダルを取ってきたが、どうもしつけがなってない。これ以上は伸びそうにないと思っていたが、会ってみたらやっぱりそうだった」というケースもあった。選手が話すのはタレントやお笑い番組のことばかりで、せっかく他競技の選手や指導者も来ているのに、「何かを聞いて帰ろう」などという気持ちはさらさらない様子だった。自分はスターだから聞かれる立場だと決めつけていたらしい。
帰った後は、菓子を食べた残りの袋が乱雑に机の上に放り投げられていた。いったい、あの監督は何を教えているのだろうと、監督の人間性まで疑ってしまった。
一方で、なんかちゃらちゃらしているのでは、と感じていたのに、いざ会ってみると驚くほどきちんとした応対で、こちらの言うことにも真剣に耳を傾け、身の回りもきちんと片づけて帰った選手もいた。まるで「今日は練習日ではないが、今日という日も自分が選手であることには変わりない」とでもいいたげな、真摯(しんし)な態度だった。武士の心構えを持っていた。
だからといって結果が必ずしも「印象点」通りになるわけではないが、けっこうその通りになったりするものだ。
だから、日常は怖い。五輪やW杯の当日よりも怖いかもしれない。
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【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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