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新弥のDAYS'
2006年01月29日更新技に逃げるな、日本
<基礎体力のトリノ:スルツカヤの自信>
レズビアンだとヒンギスに暴露された。
それが99年大会の決勝の前だった。
対戦相手のヒンギスが、そう言ったのだ。
女子テニス選手の同性愛は別に珍しくもない。
ナブラチロワがそうであったことは自身が公表しており、既婚者だったK夫人は「私は(同性相手の不倫という)間違いをおかした」と公に認めた。
しかし決勝という場の前に、自分からでなく、相手に暴露されるのはやりきれない。動揺したアメリ・モレスモ(フランス)は、初めてのメジャー大会というプレッシャーもあってか、メロメロに崩れた。
7年がたった。準々決勝敗退9度、準決勝2度の敗退。
そして奇しくも今年、皮肉にも引退したヒンギスがまた姿を現した大会で、とうとうモレスモは勝ったのだった。26歳になっていた。
28日、決勝を迎えたメルボルンで、相手のベルギーのエナン・アーデンが腹痛を訴えて第2セットで棄権。モレスモの勝利が決まった。モレスモは「神がいるようだった」と、試合後話した。1月29日付の日刊スポーツ本紙が報じた通りである。
好奇心でテニスを楽しむのも自由だが--テニスも世の中の反映で、見る側にも報じ手にだって同性愛者はむろんいる--圧倒的だったのはモレスモの肉体、その強靱(きょうじん)さだった。最近のトレーニングによって培われただけでなく、もともとの基礎体力の充実が光り輝いていた。そういえば今回の全豪は(ずっとテレビで見てきたが)「基礎体力」の勝負でもあった。大会を通してアスレチックな能力が、大きな要素となっていた。この傾向は今後も続きそうだ。
テニスだけではない。
人気のフィギュアスケートでも、基礎体力の重要性をあらためて痛感させられる。
最も優れた肉体の持ち主はロシアのスルツカヤで、彼女の場合は紛れもなく「まずアスリートであって、そしてフィギュアスケーター」なのだ。
スルツカヤの演技は、陸上競技1500メートルを走るのと同じくらいの心拍数に達すると言われるが、それに耐える基礎体力を、日本のスポーツはまだまだ十分には重視していない。
選手や現場のコーチが技術に逃げているわけではないが、ジュニアで高得点を出しても、その後の第2成長期にがくんと落ちたり、失速するのは、ジュニア時代の基礎体力軽視と関係がある。基礎体力ができていれば、失速は最小限に抑えられるはずだが、できていないとそのまま心や体が乱気流に巻き込まれやすい。
過去にそうした失敗例が多々あったが、「日本のスポーツは楽しさを教えないから」などといった、これとは無関係な論戦に引き込まれて、結局は国としての「ジュニアの基礎体力重視」は相変わらず不十分だったと思う。全国津々浦々の中学生の基礎体力強化策が、あやふやだった。それが競技選手にも、心理的・精神的な意味も含めて影響している。
そうしたツケが、今度のトリノ五輪ではまたまた各所で厳しく請求されることになるだろう。
スルツカヤは、GPファイナルで浅田真央に負けたが、「いいえ、別に負けたわけじゃないわ」と冷笑していた。自分は自分、騒ぎは騒ぎと、高い所から見下ろしていた。
実にいやな女だが、専門家に聞くと、スルツカヤはもう別格で、誰も勝負できないのだそうだ。「なにしろ彼女は、身体能力がすごいから」。それなら当たり前だ。だって、スポーツはまずそれを競うのだから。
1度は世界の頂点に立ったが、母の看病、自分の血管(心臓)の病気と、地獄も見てきた。そういった時期にも彼女は肉体の基礎の部分の充実を怠らなかった。
勝負がどう転ぶかは分からないが(万が一があればと、米国はクワン代表に押し込んだ)、それでも「実力世界一は」の問いに、専門家なら10人中10人がスルツカヤと答える。
しかし、日本では「なぜスルツカヤが強いのか」「どうしたら追い越せるのか」「あのような基礎体力をどうしたら獲得できるのか」といった議論に、達しない。それ以前の「ドラマ」(しり上がりに発音する)で、話が終わりがちだ。あるいは選手個々やコーチ、競技団体の強化策のせいにされがちだ。
本質は違う。全く違う。
これは国の問題で、国のスポーツ政策、さらにはわれわれを含めた世の中のスポーツの価値観の問題である。
同様かもしれない。
涙を誘うような金メダルシーンや、ゴールの感激がきっと待っている。けれど、負けることもある。その負けから、選手個々ではなく「日本のスポーツ」が何を得て、何を未来につなげるのか。それが問題なのだ。
基礎体力。
単なる持久的な能力の領域(スタミナ)に逃げ込んでしまわない、筋力や瞬発力、パワーやキレを含めた「基礎体力」だ。
基礎体力。
勝者にとって、美し響きを持つ言葉だ。
敗者にとって、これ以上いやな言葉はない。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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