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新弥のDAYS'

2006年02月05日更新

完調未満のときの処理

<宮里の笑顔、ヒンギスの不気味な自信>

 女子ゴルフの宮里藍が、オーストラリアでの欧州女子ツアー戦「ANZレディースマスターズ」で、いいところなく終わった。

 最終日にはチップインバーディーも見せたが、彼女らしいゴルフとはほど遠かった。

 また女子テニスの東レ・パンパシフィックでも、期待されたヒンギスが決勝ではおよそ「らしくない」プレーしかできず、競争力を発揮することなく負けた。

 宮里も「自分らしいプレーができなかった」とホールアウト後話していたが、そう語りながら本来の笑顔は崩さす、「自分はこういう経験を積んで大きくなっていくつもりです」という意志と決意を、いつものように、それこそ「宮里らしく」にじみ出していた。

 ヒンギスもそうで、ともにテレビで観ただけの印象ではあるが、「昨日のシャラポワ戦でもう疲れて、今日は集中できなかった。まあ、こうやって復活していくのです」とでも言いたげな奥底の自信をちらつかせていた。

 ゴルフやテニスをよく知る人たちにとっては、ほっとする場面だった。

 ドラマ(尻上がりに発音)を期待した人たちにとっては今回は残念だったろうが、心配は要るまい。いずれにしても、テニスもゴルフも、そう甘いものではない。

 

 ヒンギスは、以前のようにコート全域を跳び回る「天性のランナバウト・プレーヤー」の印象は影を潜め、むしろじっくりとバックラインから全体を見回していくスタイルに、意識して変化(進化)しているのだろう。

 テニスの具体的な戦術にはうといから分からないが、相手の動きを見ながらその先の先を読んで試合をつくってしまうようなスタイルから、「まずやってごらんなさい」という、半歩下がったテニスが、全豪から目立っているようだ。

 しかし、だからといってこれが「新しいヒンギス」とは限らない。いずれ、慣れてきたら体力のアップとともにもっと激しく動き、いつの間にか相手を術中に納めてしまうようなテニスをするのだろうが、見た目以上に体力を消耗するこの競技では、決勝までのペースづくりが復活直後ではまだ難しい。

 ヒンギスの日曜日の決勝は、決して「ヒンギスのレベル」まで、内容を引き上げることなく0-2で負けた。レベルを上げることはできただろうが、その体力も精神的な充実もまだ不完全なことを知っているから、「まあ、今日のところは」と、余裕すら見せて負けた気がする。

 そうではないかもしれないし、そうかもしれない。

 第2セット半ば、0-3から一度レベルをあげかけたが、自滅して苦笑していた。

 全体的には「復活の青写真の予定通り」だったのだろう。シャラポワに勝ったことは彼女にとってプラスに見えたが、「相手の調子」は我々よりもコート上のプレーヤーが鋭く感じるから、「これでもうシャラポワは怖くない」と思ったかどうか、微妙だ。それでも、ともかく日本のファンの声援を受けながら決勝まで進んだことで自信を持ち、いずれしかるべきメジャー大会で「ヒンギスのレベルに」ゲームを引き上げて、そこでどうなるかを見る腹だろう。

 不完全なときの自分をどうコントロールするか。不完全なときの自分にどんな目標を設定するか。こうしたことも、年間を通して戦う彼女たちにとって、実に重要だ。

 ゲームメーキングという言葉があるが、シーズンメーキング、さらにはライフメーキングができる選手と、そうでない選手との間には、大きな差異を感じる。

 ジャンプの原田などは、いろいろな意味でライフメーキングの名手だ(笑い)。

 宮里(の褒め方)について、昨年3月にこの欄で少し嫌みを書いた。昨年の第1回女子W杯で優勝した後、世界一になったような騒ぎが起きたので、「ソレンスタムにも勝っていないのに」と、彼女ではなく周囲の価値観にクレームをつけた。

 案の定といったら失礼だが、ソレンスタムが出てきた今年のW杯では惨敗だった。深いラフが日本チームを苦しめた。異常なラフだったらしいが、それでも勝ったチームがあるのだから、言い訳にできない。

 先週は強風に苦しんだ。

 ハエを追い払おうとして、不注意にパターをボールに当ててしまうミスも犯した。

 日本や米国の一般のトーナメントのように「完全に設定整備された」コースだけがゴルフではない。いつもの様に、いつものリズムではプレーできない所もある。そういう場所でも「自分らしさ」を発揮できるようになるまでには、宮里を含めた日本の若い女子選手にはまだまだ経験が必要で、その点では未熟と言っていい。

 ただうれしいのは、周囲の一部がいかに騒ぎすぎても、本人は自分の位置とすべきことがよく分かっていて、少しも「持ち上げすぎ」の部分に乱されていないことだ。罰打を快く受け入れたことがスポーツマンとして偉いなどとは筆者は思わないが(当たり前のことだよ、本来は自分から申告すべきことなのだから)ゴルフを極めようとする彼女の姿勢はすばらしい。だから乱れてもゴルフを投げない。自分を失わない。

 気持ちいいアスリートである。

 

 完調ではないときに、その選手の奥底が見える。そこがスポーツの面白さでもある。

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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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