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新弥のDAYS'

2006年02月12日更新

ベテランの想定外

<原田失格、この傷を癒やす日は来るか>

 「初歩的なミス、想定外でした」と原田は言ったそうだ。ほかに、なんと言えばいいのだろう。

 若手の伸びがなかったと言えばそれまでだが、ぎりぎりで五輪代表に入った。37歳の挑戦は感動的ではあるが、「なんだあいつ、まだやってるのか」という冷たい視線も感じないわけにはいかなかった。

 ベテランなりの強さ、したたかさとよく言われるが、現実に「いざ、その場」になったら、狡猾(こうかつ)さも、キャリアも関係がない。ベテランらしく戦おうとするのではなく、むしろ逆に、キャリアがあればあるほど純粋に、少年のような透明な心で無心になってスタート位置に着く。その「無心になれる」ことこそ、実はベテランの強みなのだ。

 少年のように。

 原田は、ニヤニヤと笑って自分を年寄り扱いし、他選手のプレッシャーを少しでも減じようと風よけになりながらも、内心では誰よりも無垢(むく)な気持ちでジャンプ台に上っていったのだと思う。

 事実、練習では3本とも100メートルを超えて、「やっぱり来たか」と、他国の選手やコーチにいやな予感を与えていた。

 けれど、少し少年に戻りすぎた。

 ルールが厳格化されて、体重を落とすと引っ掛かることを、軽視してしまった。

 ジャンプのルールは98~99年シーズンからスキー板の全長を、身長+一律80センチから身長比例(270センチを上限に身長の146%まで)に変更された。

 しかしこれに加えて昨季からは、体重を身長の2乗で割った体格指数(BMI)を基準に設け、満たさない選手には板を短くさせ「やせすぎ」抑制に務めている。ジャンプスーツも、今季から裸体+6センチの厚さに制限されている。

 このスーツ規定で何人もが失格となった。原田の場合は、「体が締まった」せいか、あるいは海外での食事やストレス、本番前の緊張から、体重が落ちたために結果的に「許される範囲を超えた長い板」を使ったことになり、容赦なく失格を宣言された。

 競技一点に自分と自身のすべてを集中していく過程で、こうした「ついうっかり」はしばしばあることだ。

 現実にどのような状況で規定違反が起きたのかは、テレビで生中継を観た直後の時点では不明だが、原田は自分個人のミスとしている。そうであってもなくても、スポーツでは責任は個人にあり、言い訳の余地はない。

 ただ、あまりにもあっけない敗退は、悔しいと言うよりも、ファンとして残念そのものだ。何とも言いようがない。そう、人生ではよくあることだ。滅多にないが、よくある。自分の内側で解決できない失敗。いつまでたっても落としどころのない出来事。思い出すたびにカッと、屈辱で体が熱くなること。そういうことが、実はたくさんある。

 原田に、それを挽回し、自分を癒やし慰めるチャンスはあるのだろうか。
 敗北ではなく、傷ついた原田のこれからの心の日々を思いやる。
 スポーツは、とても残酷だ。栄光と屈辱が背中合わせに張り付いている。

 栄光。

 アメリカのヘドリックがスピードスケート男子5000メートルで優勝した。ショートトラック出身。ソルトレーク五輪後に転向し、毎年のカレンダーの2月11日に真っ先に○を付けてきた。新たな目標の日であり、13年前に無くなった祖母の命日でもあった。

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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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