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新弥のDAYS'

2006年03月17日更新

WBC:日本は生意気?

<スポーツ科学から見た日韓の差異は>

 まるで2002年サッカーW杯のリプレーを見るようだった。

 スタンドをほとんど埋め尽くした韓国には、ファンと選手が一体化して勝利を目指す一途さがあった。

 野球のWBCで、1次リーグに続き予想通り2次リーグでも日本が韓国に完敗した。すでに1度負けているので客観的には自然な結果だが、球界もファンも「これが実力ではない、本当は日本の方が強いはずだ」という意識を底流に持っている。

 おそらく、それこそが日韓最大の差異だろう。

 このまま行くと、差異は「差」となり、取り返しがつかなくなるかもしれない。

 野球自体の評論は専門の評論家諸氏に任せたいが、スポーツ科学の局面から見ると、気がつかないうちに韓国は日本の野球から独立し、メジャー直結のタフな野球を目指していることがよく分かる。

 もちろん、今回の日本には不利な面もあった。監督や選手ともども「世界一決定戦だ、米国も必死で来るだろう」と史上初の真剣勝負を挑む意気込みだったのが、現地では必ずしも「国を挙げてWBCの米国必勝を応援している」風でもない。考えてみれば、米国人にとって「野球は米国が勝って当たり前」であり、何も今更「世界一決定戦」で力量を示す必要はない。むしろ、そんな場で真剣になったらかえって屈辱的だ、といったムードがなきにしもあらず。微妙な日米の温度差を感じ取ったに違いない。

 その象徴が「誤審」といわれる例の判定で、確かに審判の判定経緯はお粗末だった。しかもぽろぽろ負ける米国。肩すかしを食った選手団のモチベーションを高めるのには、王監督も苦労したに違いない。

 韓国は一途だった。サッカーでのあのときの熱気そのままだった。徴兵制度云々を指摘する人もいるが、それはあくまでサイドストーリーとしての「なるほど」ではないだろうか。いざ打席に、マウンドに立ったときに、そういうことを考えているようではとても勝てない。スポーツというのはそういうものだ。韓国は「ここ一番」での真剣勝負に際して、真剣になる強さを持っている。集中する強さを持っている。

 30年前の、そう、王監督が本塁打世界新を出し、具志堅用高が世界タイトルを連続防衛したころの、あの強さだ。日本がかつて持っていたが、今はもう消えてしまった純な気持ちだ。

 個々の能力を足し算した総合力では日本が今も上だろうが、「能力を発揮する能力」において、差を付けられた。

 しかし本当の差異は、コンピューターによる動作解析で明らかになる。1984年から日本で初めて動作分析に取り組んだスポーツ・プログラムス(東京・品川)のデータによると、韓国打撃陣は大リーグの今現在の潮流「トップハンド・トルク」を忠実に実行しているそうだ。パンチ力の秘密だ。

 これはバットを握る上側の手(トップハンド)を強くひねって、強烈なスライスをかける打撃法だ。特徴の1つは、軸をしっかりと固定して頭を動かさないことだ。今の大リーグの投手が投げる時速150キロの速球は、速球であってもボール1つぐらいは投げた本人も分からない側にぶれていく。それに対抗するには、確率からもこのシンプルな打法が今は最も有効とされている。

 日本選手は技術的にさらに高い領域を知っているので(コンピューターで見ると)頭や軸を動かしているが、それでも松中やイチローは固定軸を持っている。韓国の主力は面白いほど「大リーグ的」なパンチ力の打撃だ。

 どちらが上という話ではない。韓国はその差異の存在を熟知しているが、日本側はファンを含めて、熟知はしていないというだけだ。

 ただ、スポーツ科学の側からすれば大いに気になる話なのである。

 専門家から聞いた「受け売り」の部分も含めた話だが、韓国は、以前は日本の野球をお手本にして、日本を追い越すことが目標だった。日本という窓を通して、遙かなる米大リーグを眺めていた。それが5年ほど前から、そう朴賛浩が先陣を切って米国で実績を上げ始めた頃から「日本を通す必要はない、米国から直に採り入れよう」という色彩が強くなってきた気がする。

 トレーニングの科学、戦術面の科学、たとえば小刻みな投手リレーの監督術。さまざまな局面で、日本とは別の道を歩き始めた観がある。野球だけでなくサッカーや他の競技でも、こうした傾向が実は強い。現実を読み取り、必要な物をダイレクトに吸収している。

 選手が大リーグ入りを希望すると、韓国では一般的に「自分が頑張るだけでなく、後に続く者のために大いに吸収し、フィードバックして欲しい」というスタンスを取るそうだ。日本では野茂以来、依然として「自分は良いだろうが、残されたチームやファンはどうなる」という意識が底流にある。「日本には日本の野球がある。大味なパワー偏重の大リーグに負けてなるものか」という意識も強い。

 そういう誇りも大切だと思う。その代わり、勝負になったら、その「日本らしさ」を徹底して出し切るべきだ。出し切らねば、米国から見てただの「生意気」だ。その感情があの判定にも現れている(あれは米国の本性が現われた歴史的な「事件」でもあった)。

 1、2次リーグでの韓国戦の敗北は、「日本らしさ」を出し切れなかったことが、最大の要因だろう。失望することはない。落ち込まなくて良い。

 けれどその向こう側で、日本野球とは別の道を選択した韓国野球が、不気味ではある。

 生意気は、進化の敵である。

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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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