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新弥のDAYS'
2006年3月26日更新勝ち続ける責務
<WBCでの勝利の価値はこれから>
白鵬のさわやかな相撲が、次第に人々の心を動かし始めている。
またモンゴルか、の声もあるが、堂々とした態度、おごらぬ物腰、勝利と云うよりも相撲を極めたいといういちずな姿勢が、「ああ、この青年なら」と思わせる。
スポーツで最も大事なのはそのいちずさであり、結果ではない。
24日の高校野球の大嶺選手(八重山商工)が、劣らずさわやかだった。
見た瞬間に感じさせるものを持つ選手だが、とりわけ1回、四球を出したときの表情がなんともすばらしかった。
サッカーのGKなどがよくやる「人に見せるための笑顔」ではなく、心の底から「ああ、失敗失敗。大丈夫だよ」という、積み上げてきた物への自信から来る、堂々たる笑いだった。ああ、この選手が今日は勝つんだなと、確信させられた。その通りだった。
日本がWBCの決勝で人々を魅了したのも、まさにそのいちずさだったと思う。
いくつかの不運もあったが、結局は幸運の方が多い大会だった。
好機を見事に結果に結びつけたのは「日本野球の総合力」の豊かさに他ならないが、全員が「死んでも勝ちたい」という気迫でベンチから飛び出してきたあのいちずさが、美しかった。王ジャパンの感動は、日本のスポーツ界の歴史的な快挙といえる。
ただし、23日付の日刊スポーツ本紙が確認の意味で解説記事(飯島智則記者)を載せたように、WBC自体は形式上は親善大会であり、たとえば国際野球連盟とかIOCが開いた公式の世界選手権やW杯ではない。
だからといって優勝の感動がみじんも減ずるものではないが、今回が第1回で、大リーグ内部でも評価の分かれる性格の大会だけに、今現在は日本が獲得した栄冠の価値は、「世界標準」の野球の歴史の上ではまだ確定していない。
WBC自体の行方が、その日本優勝の価値を決める。同時に、優勝した日本が他のこれからの国際大会でどのように勝ち続けるかが、大会と日本の勝利の価値を決めるのである。
野球としてではなく、五輪を含めたスポーツ全体の世界座標から、この大会を振り返ってみよう。昨年から報じられてきたことではあるが、この大会は大リーグとその選手会が、各国の協力によって「興業」にしたもので、その意味からの性格としては商業イベントである。
しかし大会が進行するにつれて予想外の熱気が高まり、その枠を大きく越えた意味を持ち始めたのもまた事実だ。政治的な側面での大リーグの影響力のすごさも改めて感じさせられた。「イベントは大成功だった」と論評する米国メディアも少なくない。試合の内容はまさに真剣勝負の世界一決定戦であり、百歩譲っても真剣な「(戦わぬ王者・米国への挑戦者を決める)挑戦者世界一決定戦」となった。レベルの高い内容だった。
一方で「大リーグとしての最大の目標である中国市場の開拓のきっかけはこれでつかんだが、日本で開催した試合の観客動員数には大リーグも失望の色を隠せなかった」と指摘する向きもある。
次は2009年の春とされている。日本がその開催場所の候補になっていたが、「日本人は日本の試合しか観ないことが分かった」とのレポートから、日本開催案は後退したともうわさされているようだ。
大リーガーを本気で試合に引き出すことは、春先という時期では将来も困難だが、それでも第2回大会は春にほぼ決められており、次も米国自体はナショナルチーム・レベルの参加はしない。
WBCとしては、あるいは大リーグとしては、この大会をいずれは「五輪、サッカーW杯」に並ぶ世界3大スポーツ大会の1つに成長させる考えだ。それによって大リーグの市場(テレビ放映権、グッズ販売、関連メーカーの売り上げ)を飛躍的に拡大させていこうとしている。
それなら本気で大リーガーを出して欲しいと思うのが人情だが、「まだいいだろう」ぐらいの判断かもしれない。せめて大リーグの審判を出して欲しかったが、審判組織との交渉が決裂して、3Aの審判で今回はお茶を濁された。
そうした「思惑がらみの商売の進め方」に目を向けると少々不愉快になってもくるが、幸いなことにスポーツの本質はそうした外側の環境ではなく、冒頭の通り、あくまでも「いちずな勝負」である。
その感動の価値を確定するためにも、日本はさらに勝ち続けてWBCでの優勝が「本物」であったことを世界に示さねばならない。
勝ったからこそ、責務は重い。
WBC自体の価値も、日本のこれからの活躍で決まってくるのである。層の厚さを含めた総合力では勝ったが、韓国の急成長には苦い思いをした。日本らしさを出し切る工夫も今後必要だ。大リーグでは「日本のきめ細かい野球、特に基本の充実とそのレベルの高さには目を見張るものがあった」と評判になっているが、さらに研究の余地はある。
同じように、白鵬も、大嶺君も、自らベストを尽くし続けることで、「いちずさの感動」の価値をより高めることになる。「今」の価値は今決まるのではない。今の価値を決めるのは、将来の自分なのである。失敗も成功も含めて、あくまで自分なのである。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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