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新弥のDAYS'
2006年4月16日更新不運の処し方
<武富士クラシックでオチョアが優勝>
これでやっとリベンジができましたね、と周囲から問いかけられたが、優勝した24歳のロレーナ・オチョアは「そうは思わない」と答えたそうだ。
--プレッシャーの中でどう戦えばいいのか、本当に勝負すべき時に勝負をかける、その勝負とはいったい何なのか。そういったことが、自分はまだ理解できていなかった。頭では理解しても、体で実践する準備ができていなかった。もっとも必要だった“経験”をさせてくれたのが、これまでのプレーオフでの惜敗の意味だった。だから、そうした敗北に復讐したとか、これで不運を見返したという気持ちはない。むしろ、アンラッキーな経験に感謝したいくらいだ。いや、アンラッキーだったとすら、思わない--。
正確に一語一語この通りではないが、そういう意味の答えをして、感動させたという。
15日(日本時間16日)、ラスベガスで女子ゴルフツアーの武富士クラシック最終日が行われ、メキシコ出身でアリゾナ大学ゴルフ部のエースだった24歳のオチョアが優勝したそうだ。
西海岸から知人が連絡してきて、すばらしいドラマだったと教えてくれた。
米女子ゴルフツアーというと宮里藍の話に終始しがちだが--宮里は6位入賞したそうだ--オチョアは2週間前、今季初のメジャー戦のナビスコ選手権で、プレーオフでウェブに負けて泣いた。テレビで見ていても気の毒で、「この選手は、この傷を癒せるのだろうか」ときになるほどだった。
今季開幕戦でもプレーオフで負けている。
「悲運の選手」「引き立て役」といったイメージがついて回った。
けれど、本人はそうした「あそこでこうだったら」「ほんのわずかのことだったのに」という悔しさを、「自分に何が足りなかったのか」を内省することで、プラスにした。
自分自身が「あれはありがたい経験だった」と話している。
自分の仕事に対して、よほど謙虚で、よほど真剣でないと、こういう考え方はできない。「ついていなかった」と考え、「本当は自分は勝てたのに」(その資格があったのに)と、運を恨むことになりやすい。
謙虚な者だけが、「いや、自分があの不運に耐えるだけの力を持っていなかったのだ」と、物事を冷静に見つめる。
リベンジは--それこそ運がよければ--誰にでもできるが、そうした体験を本当に自分のものとしてさらにタフになっていくことができるかどうかは、この謙虚さと関わりがあるのではないだろうか。
ヘミングウエーを超えた作家として、しばしばダシール・ハメットの名が米国の米文学学会では挙げられる。
その作品「マルタの鷹」は、表面はくだらない推理小説の形式をとっているが、こんなことが書いてある。挿入的な逸話だが、
--ある男が道を歩いていると、工事現場から鉄骨が落ちてきた。それに当たらなかったのは幸運だったが、男は逆に「世の中はこういう危険に充ち満ちていて、もともと事故に遭ったり不運に遭うように人間はできている。自分が今、事故に遭わなかったのは、単に自分が神様からお目こぼしを受けたにすぎないのだ」と感じた--。
スポーツ、特にゴルフは、そんなようなものかもしれない。
ありとあらゆる「不運」が待ち受けていて、それをクリアできたものが勝つのだが、それでも悪魔の手からすべて逃げることはできない。
己の力でその不運と闘い、攻撃し、そして勝つのだという考え方もあるだろうし、一方でハメットが示唆したように、「不運のお目こぼしをせめてより多く受けられるように」プレーヤーは精進し、重圧の中での戦い方や、重圧のないところでの戦い方を学び、真摯(しんし)にプレーするべきだという考え方もある。
不運の処し方。とらえ方。
人それぞれだが、「あの不運に感謝している」というオチョアの言葉に、ときとして「自分の人生は不運だらけではないか」と落ち込みがちな我々凡人に、何か力強いものを与えてくれた気がする。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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